書評家・村上貴史が「六年待った甲斐あり」「抜群に素晴らしい」と高く評価するミステリ4作

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[本の森 ホラー・ミステリ]『あと十五秒で死ぬ』榊林銘/『雨と短銃』伊吹亜門/『蒼海館の殺人』阿津川辰海/『おれたちの歌をうたえ』呉勝浩

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 殺された者と殺した者の知恵比べ――死神の計らいで、絶命までの十五秒を“時間を止めながら過ごせる”ことになった女性が自分の胸を撃ち抜いた者と対決するという奇抜な設定の短篇「十五秒」で第十二回ミステリーズ!新人賞佳作を射止めた榊林銘。二〇一五年発表の同作を含む初の著書『あと十五秒で死ぬ』(東京創元社)が刊行された。四篇からなる短篇集だ。表題作は、前述の死闘にとどまらず、ミステリとしての妙味も詰まった一品で極上も極上。他に、TVドラマでの犯人当てクイズが強烈に捻られる第二話や、意外性と滋味が鮮やかに融合する第三話、そして“首が取れても十五秒以内に身体に繋げば問題ない”という人々が暮らす島での殺人事件を、まことにロジカルに、かつユーモアを交え、そして真剣にミステリに仕立てた第四話を収録。いずれも“あと十五秒で死ぬ”との設定があり、著者の機知をたっぷり堪能。著書を六年待った甲斐あり。

 幕末の京都を舞台に不可解な毒殺事件を描いた短篇「監獄舎の殺人」で、榊林を抑えて同賞新人賞を獲得したのが伊吹亜門。彼は受賞作を連作短篇集に仕立てた『刀と傘』で著作デビューし、同書で本格ミステリ大賞を射止めるなど高評価を得た。彼の新作『雨と短銃』(東京創元社)はその前日譚。著者は、探偵役である尾張藩公用人の鹿野師光に人間消失事件を解明させつつ、彼の視点を通じて、坂本龍馬や西郷隆盛など幕末の志士たちの心理と企みを描いた。時代小説とミステリがなめらかに一体化した小説で期待に違わぬ出来映え。長篇をじっくり読ませる才能も実感できて、著者への期待はますます高まる。

 昨年発表した初短篇集『透明人間は密室に潜む』が各種ベストテンを席巻した阿津川辰海。新作長篇『蒼海館の殺人』(講談社)は、第三長篇『紅蓮館の殺人』の続篇である。山火事に襲われた館で発生した事件に高校生探偵の葛城が挑んだ前作同様、今回も、名探偵の在り方を問うと同時に、災害に襲われた閉鎖環境でのカウントダウンサスペンスと殺人事件の謎解きを両立させた。本書の舞台となるのは、前作以降、高校に登校しなくなった葛城の実家、Y村の豪邸「青海館」だ。彼を心配して青海館を訪れた級友二人は、台風によって足止めされ、宿泊を余儀なくされる。そこで殺人事件が発生し……。推理の緻密さ、終盤のサプライズの連続、そして“名探偵性”の熟考、いずれも抜群に素晴らしい。

 呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』(文藝春秋)は、少年時代をともにした男女五人が昭和、平成、令和と送ってきた人生を、四〇年に及んで未解決の事件に絡めて語った大河ミステリ。仲間の一人の死を糸口に過去に遡るかたちでいくつもの時代を描いているのだが、その切り取り方が鮮やかである。さらに、物語の重厚さと登場人物たちの存在感にも圧倒される。大満足。

新潮社 小説新潮
2021年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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