『瞳の奥に』
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Netflixのドラマも話題! 卓抜した演出力の愛憎サスペンス
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
ミステリー小説にはどんでん返しとか驚愕の結末といった惹句が付きものであるが、それってネタバレではという向きも少なくないだろう。それはまあその通りなのだが、衝撃のラストが待ち受けていると言われると、確かめずにはいられないのがミステリー読みの性だ。横紙破りの推薦文とともにネタバレ厳禁という惹句まで付いた本書は、まさにそのツボを押さえた快作にして怪作。
物語はアデルとルイーズという二人の視点を通した現在の章と、アデルの少女時代をとらえたかつて(過去)の章とが交互に描かれていく。ロンドンの精神科クリニックの秘書であるルイーズは六歳の息子を持つシングルマザー。浮いた話から遠ざかっていたが、バーで出会った男と意気投合してキスをする仲に。だが翌日、彼、デヴィッドが新しい上司であることが判明、二人は互いに深入りするのを止める。それから程なくして、ルイーズはひょんなことから美女アデルと知り合うが、彼女はデヴィッドの妻だった。
ルイーズはデヴィッドには内緒でアデルとの友情を深めていくが、彼らの結婚生活は順調とはいえず、やがてルイーズは酔って自宅に現れたデヴィッドと一線を越えてしまう。
絵に描いたような三角関係の成立という次第で、愛憎サスペンスもそこから高まっていく。アデルとルイーズは共に睡眠障害を抱えており、アデルは少女時代に精神科の施設でリハビリを受けたことがあった。そのとき仲良くなったのがジャンキー少年のロブで、当時の危ない日々をとらえたのがかつての章。アデルとルイーズの出会いもどうやら偶然ではないようで、次第にアデルの複雑な一面が明かされていく。
ラストのサプライズばかりが話題のようだけど、五〇〇ページ超の長丁場を一気に読めるのも卓抜した演出力あればこそ。すでにNetflixでドラマ化もされているが、さて読んでから見るか、見てから読むか。