ホラーのみならずSFや幻想小説まで含む傑作短編集

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  • 蠱惑の本
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書籍情報:openBD

ホラーのみならずSFや幻想小説まで含む傑作短編集

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 1998年に廣済堂文庫でスタートした《異形(いぎょう)コレクション》は、作家の井上雅彦が監修する短編競作アンソロジーシリーズ。『ラヴ・フリーク』『侵略!』『変身』……という具合に、毎回違うテーマで新作を集め、狭義のホラーのみならず、SFや幻想小説にも発表の場を与えてきた。16巻からは光文社文庫に移り、48巻まで刊行。その後長く中断していたが、昨年11月、第49巻『ダーク・ロマンス』が出て9年ぶりに復活。12月には記念すべき第50巻『蠱惑の本』も出た。

 各15編のうち一部を紹介すると、前者では、中田秀夫監督『女優霊』にオマージュを捧げるホラー映画バックステージものの傑作、澤村伊智「禍(わざわい) または2010年代の恐怖映画」がすばらしい。牧野修「馬鹿な奴から死んでいく」は、呪術医と魔女の死闘を華麗な文体で描くサイキックアクションの快作だ。

『蠱惑の本』は書物がテーマ。北原尚彦「魁星(かいせい)」は、一昨年病没した横田順彌との交友に架空の古本ネタを交えた胸に沁みる懐旧的古典SF幻想譚。柴田勝家「書骸(しょがい)」は本の剥製(!)をつくる話。斜線堂有紀「本の背骨が最後に残る」は本と本が論争する愉快な特殊設定ミステリ。次巻は5月刊行予定とのこと。

 アンソロジーもう1冊は、昨年7月に出た伴名練編の傑作選『日本SFの臨界点[怪奇篇]ちまみれ家族』。編者は前記『ダーク・ロマンス』にも寄稿している若手SF作家。初のSF短編集『なめらかな世界と、その敵』刊行時に短編SFとアンソロジーに対する偏愛を熱く語ったのがきっかけで、この企画が実現した。収録作のほとんどは個人短編集未収録のレアもので、掲載順にも趣向が凝らされている。とりわけ前半の、中島らも「DECO-CHIN」~山本弘「怪奇フラクタル男」~田中哲弥「大阪ヌル計画」~岡崎弘明「ぎゅうぎゅう」という並びが絶妙です。作家解説は各3~5ページに及び、編集後記は熱いSFアンソロジーガイドになっている。『同[恋愛篇]死んだ恋人からの手紙』とセットでどうぞ。

新潮社 週刊新潮
2021年3月25日花見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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