『物理学者のすごい思考法』
- 著者
- 橋本 幸士 [著]
- 出版社
- 集英社インターナショナル
- ジャンル
- 自然科学/物理学
- ISBN
- 9784797680676
- 発売日
- 2021/02/05
- 価格
- 924円(税込)
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仮説→検証→予測 物理屋の日常生活
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
筆者はこれまで、多くの優れた研究者と出会ってきたが、やはり数学者と物理学者の能力は別次元と感じる。その思考回路がどうなっているのか、凡人に少しでもわかるよう語ってもらえぬものかとよく思うが、どうも難しいらしい。凡人に彼らの脳内がわからぬように、彼らにも凡人の脳内は想像できない。その差を把握し、間を埋めるようわかりやすく語るのは至難の業だ。
ところがごく稀に、それを軽妙にやってのける人物が現れる。『物理学者のすごい思考法』の著者・橋本幸士はそうした貴重な能力の持ち主だ。
本書はタイトルから想像されるようなノウハウ本ではなく、物理学者の日常生活を描いたエッセイ集だ。著者は職業柄、ありとあらゆるものを見ては仮説を立て、検証し、それに沿った予測を行なってしまう。漢字の対称性を見れば重力の影響を感じ取り、スーパーに入れば最も効率的な巡回経路を追求し始める。満員のバスなどに乗った日には、人体を球に近似して乗車人数を推算し、翌日は何分早く乗ればよいかを概算してしまう。そうした小難しい話ばかりではなく、こまめにボケも織り交ぜ、妻から鋭いツッコミを浴びるあたりはさすが大阪人だ。
文章がこなれている上、一編が四ページ程度なのでスキマ時間にも読みやすい。「物理学者の思考法を身につける!」などとさもしい根性を起こさず、まずはじっくりこの文体を味わってほしい。それだけでも十分な価値がある楽しい一冊だ。