介護のあと――『夜想曲……別れ』著者新刊エッセイ 早坂真紀

エッセイ

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夜想曲……

『夜想曲……』

著者
早坂真紀 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913922
発売日
2021/03/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

介護のあと 早坂真紀

[レビュアー] 早坂真紀(作家)

 夫が逝(い)ってから三年が過ぎた。

 生活を共にして五十三年。数字だけみると長い月日だけれど、過ぎてみればあっという間だった。

 特に脳梗塞で倒れた夫を介護した三年半と、見送ってからの三年は、本当に信じられないほど束の間だった。

 まさか自分の夫が脳梗塞で倒れるだなんて、夢にも思わなかったし、想像さえしたことがなかった。生まれてきたからには必ず死を迎えるのだということは、知識では知っていた。両親も死んだし、我が溺愛犬のキャリーだって死んだ。それでも夫が脳梗塞の後に死ぬなどと、まして私が夫の介護をするなどと想定外だった。

 平均寿命までまだ何年かあるから、これからは穏やかに暮らそうと二人で夢を見ながら、自分たちはどんな形の死を迎えるのだろうかなどと、茶飲み話のように話していた。現実感はなかったが、それは突然やってきた。そして三年半の闘病の末に亡くなって三年が過ぎた。

 介護……。それはきれい事ではない。昔のような大家族ならまだしも、終わりの見えない介護は老夫婦にとって精神的にも肉体的にも半端ではない負担がかかる。老々介護の末の無理心中も、今なら理解できる。

 その時の経験を元にして『夜想曲……別れ』を書いた。正直に言うと介護というものは、する方もされる方も実際はこんなきれい事ではない。これから介護が始まるかもしれない方は、これはあくまでも実体験を元にしたものの、小説であるということを含んで、お読み下さい。

 しかしすべては終わった。最期に夫が微笑みを浮かべて逝ってくれたことが、どんなにか私の救いになったことか。

 介護のあと、これからの時間はすべて自分のために使おうと思ったら、新型コロナ騒ぎで『お家(うち)時間』。お籠もりは、夫との思い出を振り返ってばかりの時間になってしまった。

光文社 小説宝石
2021年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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