フランクリン・ローズヴェルト 佐藤千登勢著 中公新書

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フランクリン・ローズヴェルト

『フランクリン・ローズヴェルト』

著者
佐藤 千登勢 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784121026262
発売日
2021/01/19
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

フランクリン・ローズヴェルト 佐藤千登勢著 中公新書

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

 リーダーの本領とは危機においてこそ発揮されるものである。新型コロナウイルスが世界を席巻している今、政治リーダーはいかにあるべきなのか。大恐慌と第2次世界大戦という二つの危機に立ち向かったアメリカ第32代大統領フランクリン・ローズヴェルトの姿を克明に描いた本書は限りない示唆を与えてくれる。

 ローズヴェルトは歴史家の評価でも常にリンカーン、ワシントンとともに上位にランクされている。看板政策「ニューディール」(新規まき直し)によって大恐慌は克服できなかった。ユダヤ人の救出にも必ずしも積極的ではなかった。黒人をはじめとするマイノリティーの権利獲得でも在任中大きな進展はなかった。にもかかわらず、なぜ高い評価を得ているのか。

 スピード重視で政策の遂行にあたり、幾多の批判にもひるむことなく己が信じる道を突き進んだこともあるが、著者が何よりも重視しているのはコミュニケーション能力の高さである。言葉の力を信じ、アメリカの理想を語ることで国のあるべき姿と進むべき道を国民に訴え、信頼を勝ち取った。ラジオを通して国民に呼びかける「炉辺(ろへん)談話」は、12年間の在任中30回を数えた。記者会見は998回に上った。

 「我々が恐れなければならないのは、恐怖心そのものだけだ」。大統領就任演説の一節である。今、私たちが直面している大恐慌という事態を嘆き、恐れるのではなく、勇気を持って立ち向かおう。そうすればこの困難を必ず克服できると国民を鼓舞したのだった。

 39歳でポリオ(急性灰白髄炎)に罹患(りかん)し下半身不随となるが、病を通じて人間の苦悩がどのようなものかを学び、あらゆる恐怖心を克服できるという確信を持つようになったという。息子を溺愛し過保護だった母サラに対する愛情と反発の葛藤が、ローズヴェルトの人間形成にいかに大きく作用したかも丁寧に描かれている。政治と人間を考える好個の評伝である。

読売新聞
2021年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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