『ちゃんと知りたい! 新型コロナの科学』出村政彬著

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ちゃんと知りたい! 新型コロナの科学

『ちゃんと知りたい! 新型コロナの科学』

著者
出村 政彬 [著]
出版社
日経サイエンス
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784532520809
発売日
2020/12/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ちゃんと知りたい! 新型コロナの科学』出村政彬著

[レビュアー] 長辻象平(産経新聞論説委員)

 ■巧みな比喩で理解が進む

 中国・武漢市から流行し始めた新型コロナウイルスとその感染症は、国境や国家体制の枠を超えて全世界の人々にとっての関心事だ。

 中国人患者の肺洗浄液から検出された病原体の塩基配列はサーズウイルスと79・5%一致するものだった。サーズはコロナウイルスの一種なので武漢ウイルスは新型コロナウイルスと通称されるようになったのだ。

 本書はこの謎に満ちたウイルス発見から1年の間に解明された数々の科学的事実をはじめ、治療薬やワクチンの開発、感染拡大防止策などについて詳述し、ウイルスと闘う私たちの体の免疫システムの紹介にもページを割いている。

 当然、ゲノムや核酸、B細胞やT細胞といった生命科学系の用語が頻出する。新型コロナとの闘いの最先端を理解するには避けて通れない部分である。

 読者はともすれば、この関門で挫折しがちだが、サイエンスエディターの著者は実に巧みな比喩をコラムなどに適宜織り込んで初学者にも分かりやすく解説している。

 例えば、染色体のDNAを1冊の本に見立てている。本の各章に生物の体を作る情報が書かれているのだが、その1つの章が1つの遺伝子に相当するという具合だ。本の中には挿絵や空白のページがあるように、DNAの上にも遺伝子ではない領域が存在すると教える。

 そして図書館(細胞の核やウイルスの殻に相当)の本をコピーした紙がRNAに当たると教える。コロナのようなRNAウイルスは、コピー用紙の束しか持たないので遺伝情報にエラーが起きやすいというわけだ。

 まことにお見事。そして読者に語りかける文体が本書の特徴だ。ウイルスをゴルフボールに見立てると細胞の直径は10メートルという比較も秀逸。ワクチンの有効率の算出方法が分かるのもうれしい。この書評では読みやすさに注目したが、内容はかなり高度な水準だ。内外の多数の論文を読み解いて執筆されているので、新型コロナウイルス感染症の最前線を展望できる。

 マスクや自粛に劣らず、ウイルスと免疫に対する知識の補強も感染予防に有用だ。巻末の出来事年表も充実しているが、索引があればもっとよかった。(日経サイエンス・1800円+税)

産経新聞
2021年3月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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