「探偵は何のために存在するのか」 その問題に取り組む4冊

レビュー

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  • 蒼海館の殺人
  • 新装版 頼子のために
  • 十日間の不思議〔新訳版〕
  • 九尾の猫〔新訳版〕

書籍情報:openBD

「探偵は何のために存在するのか」 その問題に取り組む4冊

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 探偵は何のために存在するのか。謎解きミステリが抱える永遠の課題に対し、これ以上ないほど誠実に向き合ったのが阿津川辰海『蒼海館の殺人』である。

 語り手の高校生、田所信哉はY村にある「青海館(あおみかん)」という屋敷を訪れる。そこは田所の親友であり、高校生探偵でもある葛城輝義の実家であった。葛城と田所は二カ月前にM山中の館で起きた事件に巻き込まれ、その際に葛城は心に傷を負い、学校に来ず引き籠ったままだったのだ。

 館で田所を待ち受けていたのは、政治家の父を始めとする錚々たる葛城の親族たち、そして凄惨な殺人だった。折しも豪雨によってY村が洪水の危機に見舞われる。果たして田所たちは生還できるのか。

 刻一刻と危険が迫る中、登場人物たちは命がけの謎解きに挑む。本作では精巧な寄木細工を思わせる犯罪計画が描かれており、終幕近くまで謎解きの興味が全く途切れないのだ。

 過去の事件に囚われた探偵が果たして再起することができるのか、という点も読みどころの一つ。探偵の存在意義を巡って、登場人物たちが交わす真摯な言葉の数々が胸を熱くさせる。

「ミステリにおける名探偵とは何か?」という問題に取り組み続ける作家として思い浮かぶのが、法月綸太郎である。その中でも『頼子のために』(講談社文庫)は、探偵の役割を論ずる上で欠かせない一作だ。殺された娘の復讐に燃える父親の手記を読んだ作家探偵・法月が辿り着く真相は、読んだ人間の探偵観を大きく揺るがすような衝撃を放つものだ。

 その法月綸太郎が範とした作家が謎解きの巨匠、エラリイ・クイーン。作者と同姓同名の探偵が活躍するシリーズの中でも、重要な問題提起を孕む作品が『十日間の不思議』(越前敏弥訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)と『九尾の猫』(同)の二作である。クイーンが試みたのは、探偵を単なる謎解きの装置ではなく、血の通った人間と捉え、挫折と再生のドラマを描く事であった。名探偵の限界と可能性を考えさせる新訳版の二冊である。

新潮社 週刊新潮
2021年4月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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