作り手たちが証言する大河が「作品」だった頃

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大河ドラマの黄金時代

『大河ドラマの黄金時代』

著者
春日 太一 [著]
出版社
NHK出版
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784140886472
発売日
2021/02/10
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

作り手たちが証言する大河が「作品」だった頃

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」は、記念すべき第60作に当たる。

 春日太一『大河ドラマの黄金時代』は、過去の作品が「どのように作られたか」を検証した一冊だ。対象は1963年の第1作「花の生涯」から91年の「太平記」まで。当時のプロデューサーとディレクターの「証言」だけで構成されているのが最大の特色だ。

 最初のプロデューサー・合川明は、芸能局長から「スターを連れてこい!」と厳命を受ける。しかし映画俳優は会社との専属契約に縛られ、テレビ自体が格下と見られた時代だ。合川も松竹のスター・佐田啓二を担ぎ出すのに苦労する。

 その後、長谷川一夫主演の「赤穂浪士」、新人だった緒形拳を起用した「太閤記」とヒットが続き、第7作の「天と地と」では演出家3人の分担制が導入された。その一人、清水満は「紙芝居的な面白さを狙おう」としたことを明かす。

 また前代未聞の事態となったのが74年の「勝海舟」である。主演の渡哲也が病気で交代し、脚本の倉本聰が途中降板したのだ。本書ではディレクターの伊豫田静弘が、無理なスタッフ編成など核心部分を率直に語っていて驚かされる。

 読後、印象に残るのは作り手たち個人の熱い思いであり、真っ直ぐな創作欲だ。そこには「マーケティング」など存在しない。変ってくるのは、大河ドラマが「作品」から「商品」へと移行する90年代だ。著者が執筆範囲を「黄金時代」と呼ぶ理由もそこにある。

新潮社 週刊新潮
2021年4月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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