権威主義 独裁政治の歴史と変貌 エリカ・フランツ著 白水社

レビュー

5
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権威主義

『権威主義』

著者
エリカ・フランツ [著]/上谷 直克 [訳]/今井 宏平 [訳]/中井 遼 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784560098219
発売日
2021/02/02
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

権威主義 独裁政治の歴史と変貌 エリカ・フランツ著 白水社

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

 民主主義が徐々に浸透していたミャンマーで軍事クーデターが発生し、再び権威主義の時代に逆戻りしそうな気配である。新型コロナを過度なまでの統制で抑え込んでいる中国は権威主義体制こそが成功の秘訣(ひけつ)だと豪語する。権威主義は効率的で統治しやすいといった議論が民主主義世界を揺さぶっている。

 本書は権威主義についての基本的な疑問に明快に答えてくれるテキストだ。政治学では従来、全体主義、権威主義、独裁制、専制などが個別に議論されていたが、これらを一括して「権威主義」と呼ぶのが趨勢(すうせい)らしい。現在、世界の約4割の国がそうした政治体制だという。

 本書では権威主義が軍事独裁、支配政党独裁、君主独裁、個人独裁に分類され、それぞれの特徴が論じられている。軍事独裁は短命な傾向があり、近年は減少傾向にある。個人独裁は好戦的で外国と紛争を起こしやすく、民主化の可能性が特に低い。支配政党独裁は既得権益層が大きいので比較的長期政権となる、等々。

 では、権威主義と民主主義を分ける基準は何か。著者によれば、その基準は政府が自由で公正な選挙で選ばれているかどうかだ。ただ、冷戦後の権威主義体制は民主主義を装い、むき出しの権威主義であることを回避しようとする傾向がある。また、抑圧と抱き込みの両面を使って巧みに延命を図るという。

 冷戦後の社会主義体制崩壊のなかで、権威主義体制はやがて民主化するだろうと予想されていた。しかし、そうした楽観的な予測は権威主義体制の増加によって外れた。特に近年では、民主主義的に選ばれたポピュリストが権威主義に向かう事例も多いという。

 民主主義諸国との連携強化を主張する日本はこうした体制とどう向き合っていくべきなのか。権威主義を扱う本書は、ひるがえって民主主義の理論と体制のさらなる精緻(せいち)化の必要をわれわれの側に訴えているように思われる。上谷直克ほか訳。

 

読売新聞
2021年3月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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