おれたちの歌をうたえ 呉勝浩著 文芸春秋

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おれたちの歌をうたえ

『おれたちの歌をうたえ』

著者
呉 勝浩 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163913278
発売日
2021/02/10
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

おれたちの歌をうたえ 呉勝浩著 文芸春秋

[レビュアー] 稲野和利(ふるさと財団理事長)

 大学受験直前の時期に「浅間山荘事件」のテレビ中継に釘(くぎ)付けとなって勉強が一切捗(はかど)らなかったこと、テレビCMの「24時間戦えますか」という惹句(じゃっく)に乗せられるかのように働き詰めに働いていた頃のことを思い出した。本書は、昭和・平成・令和という三つの時代にまたがる約50年の時の中で起きた事件と時代に翻弄(ほんろう)される人々を描くミステリー。藤原伊織『テロリストのパラソル』に大きな影響を受けたと語る著者が、同作を意識しながら書きあげた大作だ。

 令和元年、落ちぶれた元刑事の河辺久則は幼馴染(おさななじ)みの五味佐登志が亡くなったという連絡を受け、松本へ向かう。五味の世話をしていた金髪・坊主頭のチンピラ茂田斗夢と出会った河辺は、五味の死が病死ではなく他殺と気づく。生前の五味の言葉から金塊の隠匿を確信する茂田は、隠し場所を示唆する暗号を解読するよう河辺に持ちかけ、二人は行動を開始する。

 昭和47年、河辺・五味ら長野県の小学校同級生5人は、学生運動過激派の指名手配犯逮捕に協力したことから「栄光の五人組」と呼ばれるようになる。その後、様々な事件が起こり、五人組の人間関係は変質する。

 河辺は暗号を解く手がかりを求めて、かつての仲間との再会を果たしながら茂田とともに動き回り、ついには五味の死や過去の未解決事件の苦い真相に辿(たど)り着く。少年の眼(め)に焼き付いた過去のイメージが大きく覆される。

 全編を通じて雪の光景が印象的だ。音楽、歌、文学作品など固有名詞で表現される舞台装置も凝っており、話の展開に彩りを添える。河辺に触発されワルの茂田が次第に変わっていく様も読みどころだ。昭和の学生運動、平成のバブル崩壊など揺れ動く時代そのものが話の展開と密接に関係し、時代も主役だ。時代の圧力により変質を余儀なくされたものと変わらなかったもの、その両者を描き切ったことにより、奥行きのある物語に仕上がっている。

読売新聞
2021年3月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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