どこか孤独を感じている人に。フランスの作家サガンが問う「知性、自由、自信」

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サガンの言葉

『サガンの言葉』

著者
山口路子 [著]
出版社
大和書房
ISBN
9784479308539
発売日
2021/02/12
価格
770円(税込)

書籍情報:openBD

どこか孤独を感じている人に。フランスの作家サガンが問う「知性、自由、自信」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

18歳のときに書いた『悲しみよこんにちは』によって世界的な名声を得たフランソワーズ・サガンは、文学の才能はもちろんのこと、考え方やライフスタイルなどの多岐にわたり、幅広い支持を得たフランスの作家。

品格があり、しかし破天荒で、それでいて繊細。莫大な印税を得たスター作家でありながら、アルコール、ギャンブル、過剰な浪費、病気、薬物依存など、数々のスキャンダルを生み出してきたことでも有名です。

特筆すべきは、そうしたマイナス要素も含め、「サガンらしいな」と思わせること。つまり、その存在すべてが多くの共感を生んできたわけです。

サガンの言葉』(山口路子 著、だいわ文庫)は、そんなサガンの“ことば”をまとめた一冊。そこに嘘はなく、人生についての根本的な問いかけがあるため、次のような人たちの心には強く響くだろうと著者は記しています。

内面的に揺れ動いている人。

つねに自問している人。

自由でありたい、と強く願う人。

結局のところ人は孤独なのだ、とふるえる夜がある人。

誰にも理解されない、と感じる人。

何かをする「理由」を考えることが多い人。

「善」「悪」の基準は曖昧だと思う人。

テレビが嫌いな人。

この恋愛もいつかは終わる、と熱愛中にも客観視してしまう人。

偏見を嫌う人。

慣例に盲従する人を見るといらつく人。

集団狂気に用心している人。

陰影のある人。

精神的に豊かな暮らしをしたいと願う人。

(「はじめに」より)

CHAPTER 1「知性と孤独」のなかから、3つのことばを抜き出してみましょう。

相手に劣等感をいだかせない

人々がサガンについて語るとき、よく使われたのは「知性の人」ということば。

ただし「知性」とは、「知識=ある物事について知っていること」とは違うもの。そのことに関連し、ここでは晩年の作品『愛を探して』のなかから次のやりとりが紹介されています。

――あなたにとって知性とは?

――ひとつの問題に対して多くの視点から考えられる能力。視点を変えて学ぶことができる能力。

(33ページより)

ひとつの事柄に対し、多角的な視点で考えることの重要性を説いているわけです。そして大切なのは、その結果として自分の考え方を変える必要があると感じたとき、そうできるだけの柔軟性を持つこと。

自由であることを願うからこそ、他の人の自由を尊重するという発想です。人間を知りたいという欲求があるからこそ、自分自身を見つめ疑うという作業が大切なのです。

それに加え、サガンの会話を見聞しているとわかることがあると著者は記しています。“本物の知性の人”は、相手に決して劣等感を抱かせないということ。これはサガンのいう「やさしさ」にも通じると考えられるでしょう。(32ページより)

自由とは、自立とは

自立とは、 自分自身を見つめ、 自分の立ち位置を 理解することです。

サガンは「自立した精神なくして自由はない」という意見を持っていたそうです。

「自立していれば、ほかの人たちの意見や世の中の風潮、たとえば、どのようにすれば幸せになれるか、といったバカげたスローガンなどから自由でいられます」と。

「自立とはトレーニングしなくてはならない筋肉のようなもの」であり、まず必要なのは「自分自身を見つめる時間の余裕をつくること」、そして、たとえば「3時間ひとりになって本を読んだり、音楽を聴いたり、のんびりしたり、考えたり、つまり頭の筋肉を働かせること」。

また、「自立と自由は私の武器です」ということばもあるのだとか。

「自立し、自由を求めることは、人生に対する強い意欲の表れです。私は自分が自由であることにほんとうに情熱を注ぎました」(55ページより)

世間や、自分ではない他の人たちの考えに絡めとられることがないように、サガンはこれほど精神的な自立、自由を大切にしていたわけです。 (54ページより)

いつも自信がない

多くの人は何かをするときに 「どうしてそれをするのか」、 その理由や目的を考えないで 「どのようにすればよいか」、 方法ばかり考えている ように思います。

なにかを達成しようとして、あくせくしているときこそ、「本来の理由、目的はなんだったのか」「それをする必要があるのか」「それは自分が望んでいることなのか」と、一度立ち止まって考えてみたいところ。

サガンはつねに「考える人」で、その理由について「自分に自信がないからじゃないかしら」と語っていたそうです。

「自信をなくすことのない人なんているかしら。私は自信をもつときがありません。だから物を書いているのです。自信のないことが私の健康であるわけです」(61ページより)

そのため毎日のように自分に「どこまで自分は来たのだろう? それについてどう考えればいいのだろう?」と聞いていたそう。(60ページより)

サガンの生き方、考え方を完全に模倣することは難しいかもしれません。しかし、本書のなかから感覚的に無理なく共感できたことだけを取り入れてみるだけでも、目の前の景色は大きく変化するかもしれません。

Source: だいわ文庫

メディアジーン lifehacker
2021年3月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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