原発廃炉はどうするのか 困難極める放射能汚染水の処理

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原発事故は終わっていない

『原発事故は終わっていない』

著者
小出裕章 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784620326306
発売日
2021/02/27
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

原発廃炉はどうするのか 困難極める放射能汚染水の処理

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

新聞に「原発処理 10年で13兆円」との活字が躍りました。「福島第一 国民負担今後も」とも。廃炉作業が難航しているということです。

 一方で、汚染水をどうするかも近年の課題です。本当に「海洋放出」をするのか。それでは漁業関係者が黙ってはいまい。そこのところが知りたくて本書を手にしました。

 地震、津波、原発事故といっぺんに起きました。そのとき私は使っている電気が福島からきていることを知りませんでした。いやあまりにも日常で、電気を意識したことがなかったというのが正直なところです。

 大いに恥じ、勉強を始めたのですが、事故は分からないことだらけです。その第一は、あれだけの事故を起こしながら誰も責任を取らないことです。「想定外」と言うのみで、東電役員は逃げの一手なのです。責任を取るからこその高い地位でしょうに。

 逆にハッキリしたのは、原発の売りの「安全、低コスト、クリーン」が嘘であったことです。説明を鵜呑みにしていたわけで、このことに気づいただけでも不幸中の幸いと言えるのではないでしょうか。

 さて汚染水の処理ですが、これも困難を極めそうです。著者は「放射能汚染水を海に流す、これは究極の環境汚染である」といきなり言います。そして「トリチウムの濃度を1リットル当たり6万ベクレル以下に希釈しなければ海洋放出はできませんし、汚染水が毎日増え続けている現状を踏まえると、すべてを放出し終わるまでには、きっと何十年もかかるでしょう」と言い、「いずれ国と東京電力は『放射能汚染水を海に流す』という選択をするだろうと私は思います」と予想するのです。

 汚染水ひとつ取っても究極の選択を迫られます。溶け落ちた燃料デブリに至っては、いまだに手がつけられていません。果たして取り出して封じ込めることができるのか。私が、いや皆さんも存命中に見届けられないのが確かなのです。

新潮社 週刊新潮
2021年4月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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