『だからヤクザを辞められない』
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離脱した「元ヤクザ」に巻き返しのチャンス
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
ヤクザをどう扱うかという問題について、日本はしっかりした軸をもっていない。反社会的勢力を圧迫し排除する流れは続いているから、暴力団離脱者は多いが、カタギへの転身には勉強も訓練も必要で、すんなりとはいかない。また、カタギになろうとする人に十分な就職機会がない。「犯罪でカネを稼げ。やり方は知っているだろう」とそそのかしているようなものではないか。
廣末登『だからヤクザを辞められない』を読むと、離脱者の苦しさがわかる。離脱後一〇年経っても銀行に口座を開けなかった人もいる。住居や携帯電話など社会人として必要なものを自力で契約できないのは、現代社会では刑罰にひとしい。そうやって社会全体が「元ヤクザ」をいつまでも執拗に罰しつづけているかぎり、「元ヤクザ」は「一般市民」にはなれず、まともに働き税金を払って社会を支える側に回れない。
暴力団組織が勢力を失っていくにつれ「半グレ」が台頭し、〈ヤクザを縛る法律によって半グレは守られている〉実情ももどかしい。かれらは組事務所ももたずなわばりも見えにくい。社会にとっては、よりやっかいな存在だ。
元ヤクザを人間扱いしない社会は、仕事で挫折した人、人間関係で失敗した人、病気治療中の人などにも巻き返しのチャンスを与えない社会だと思う。この本は、「そんな世の中で本当にいいのか、あなたは苦しくないのか」と問いかけているように思える。