今も昔も人びとの楽しみ方は同じ? 100年前の躍動する“新語”たち
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
毎年、発表されるたびに物議を醸す「ユーキャン新語・流行語大賞」。例えば2019年にノミネートされた衝撃の“流行語”に「スマイリングシンデレラ」(!)や「おむすびころりんクレーター」(!!)なるものがある。えっ、こんな言葉、ほんとにみんな使ってるの?――多くの人は、こうしたツッコミも含め、新しさを求める風潮そのものを訝しみつつも愉しんでいるんじゃなかろうか。
本書は、“百年前の流行語”をめぐって当時の見解からその風俗を鮮やかに浮かび上がらせる、知的好奇心に満ちみちた一冊だ。今年2月の発売後わずか二日で重版出来と好調なすべりだしを見せている。
本書は、大正中期から昭和初期までに発行された約30もの新語・流行語辞典から、とりわけ発想が斬新なものや、現在は一般的に使われるようになった言葉の知られざる由来などを選りすぐって収録したもの。生活、学生、外来語、思想、女学生、文化、医療、社会、隠語の9つのジャンルに分けて整理してあるほか、イラストもふんだんに使われ、その言葉が用いられていた状況が想像しやすい。
「言葉が生まれる背景から関連する当時の事件まで、編著者の平山さんによるこまやかな解説が施されている点に加え、同時代の文芸作品から用例も示しています。おかげさまで“風俗のみならず実際に生活していた人びとの「横顔」が見える気がする”という声が多いです」(担当編集者)
冒頭の「スマイリングシンデレラ」に相当するような衝撃の新語(例:「ガッカリアイエン人」「さよなら五分」「ありのすさび組」等々)も盛りだくさんだが、より興味深いのはそこに付随する当時の辞書の語釈のほう。例えば「イデオロヒメ」なる語に付された当時の語釈には〈厄介なモダン嬢〉〈恋人にも女房にも、お薦め致しかねる代物〉とある。
「あたかも辞書を作っている人自身の苦々しい表情やしたり顔が見えてくるようですよね(笑)。そうした当時のニュアンスも含めて、躍動する文化をめぐる人びとの営みの奥行きを味わっていただければ」(同)