『最後の弟子が松下幸之助から学んだ経営の鉄則』
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30代で勝負をかけることが、その後の成功につながるー松下幸之助のことば
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
タイトルからもわかるように、『最後の弟子が松下幸之助から学んだ経営の鉄則』(江口克彦 著、フォレスト出版)の著者はパナソニック(旧・松下電器産業)創業者である松下幸之助さんの“最後の弟子”。側近であり、松下幸之助哲学、松下幸之助経営の伝承者とも語り継がれる人物です。
松下電器産業株式会社からPHP総合研究所へ異動し、松下さんの秘書に。当時からほとんど毎日毎晩、直接語り合い、その側で過ごしたのだそうです。
本書は、そんな著者がおよそ2年にわたり、Facebookに載せ続けてきた文章をまとめたもの。ただし書籍化の話が持ち上がった時点で原稿量は500ページ以上に及んでいたのだとか。
そこで経営的な内容、松下幸之助さんに関する内容だけを抽出し、経営者やビジネスパーソン向けにまとめたのだといいます。130篇前後のなかから75篇が厳選されているというだけあり、非常に密度の濃いところが特徴。
第3章「言葉ではなく心を読み取る」のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみることにしましょう。
仕事を処理するコツは、3Jにあり
1週間で、と言われて
1週間で、と最初は思ったが
2日も経つと
「きみ、あれ、出来たか?」と
松下幸之助さんが言う
当然のことながら、著者には松下幸之助さんからしょっちゅう指示が出されたといいます。特筆すべきは、著者が指示されたことを「1か月で」といわれれば2週間以内に、「1週間で」といわれれば3日間で、「3日で」といわれればその晩に徹夜してでも仕上げ、報告したという事実。
もちろん最初からそのつもりだったわけではなく、「1週間で」といわれた場合は1週間でやるつもりだったそう。ところが2日も経つと、松下幸之助さんからは「きみ、あれ、できたか?」と聞かれたというのです。
そのため「ん?」と思いながらも「すみません。いま、取り組んでいます。5日後にご報告します」と伝えると、「そうか」と別に怒りもせずにうなずかれるのみ。
しかし何度かそのようなことが続くと、「なるほど、待ってるんだな」ということがわかるようになったのだとか。
そこで以後は、松下さんからの指示については「いわれたら、すぐに仕上げる」「指示された時間にとらわれず、可及的速やかに仕上げ、報告する」ことがクセになったのだといいます。
こうした状況に立たされたとき、「仕事が多すぎる」と嘆く人もいることでしょう。しかし著者は、一度に20も30も仕事を持たされたとしても、「多すぎる」「多忙だ」などとは感じたことがなかったそう。
それは、松下幸之助さんのおかげで、仕事をすぐ処理し、「仕事の荷物」を素早く下ろして手放し、いつも身軽になっておくことを覚えたからだと振り返っています。
ただ、心掛けているのは、
①仕事の順番を決めること、②それぞれの仕上げ時間を決めること、③充実した仕上げにすることである(順番=J-unban、時間=J-ikan、充実=J-ujitsu⇒3J)。(155ページより)
仕事の順番は、刻々と変わるもの。なぜなら仕事は、常に新しく「追加」されるから。したがってその都度、「最重要はなにか」「最重要の合間にできるものはないか」と考えることが大切。
最重要が先頭とは限らず、時間も含めて臨機応変に望むべきだということです。
ただし仕上げだけは、最重要か合間仕事かにかかわらず、「充実して、いいものを」と心がけてきたし、現在も心がけているのだといいます。(152ページより)
30代で勝負をかけることが、その後の成功につながる
30代が大事
苦労を厭うな
立ち向かい、勇気をもって闘え
その気迫を持ち続けるならば
その人は
生涯、青春である
著者は38歳になったとき、松下幸之助さんにそのことを伝えたそうです。すると返ってきたのは、「うん、きみ、若いなあ」という答え。そのとき83歳だった松下さんからすれば、たしかに若いということになるのでしょう。
ほんとうは、この血のにじむような苦労をせんとね。
その時期は、やはり、30代やな。いちばん伸びるときは、30代や」(江口克彦著、『松下幸之助随聞録―心はいつもここにある』)(183ページより)
事実、松下幸之助さんが経営理念や綱領・信条、基本方針を示したのは34歳のとき。輸出事業を開始したのは37歳で、事業部制を考え出して実施したのも38歳のときのこと。のちの松下電器の礎を、30代でつくっているわけです。
著者が「松下さんがいうように、『人生においては、30代が勝負』ということは言えるように思う」と記しているのも、そんな松下さんの姿を見てきたからなのかもしれません。
松下幸之助さんが、94歳まで、新年と希望を持って生き続ける事が出来たのは、「30代に、勝負をかけたからだ」と言えるかもしれない。(186ページより)
30代をいかに生きるかは、それほど重要なことなのでしょう。(182ページより)
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冒頭でも触れたとおり、本書のベースになっているのは著者がFacebookに綴った散文。非常に密度の濃い内容であるだけに、その魅力をここで簡潔にお伝えるすのは難しくもあります。
だからこそ、ぜひとも実際にじっくりと読み進めていただきたい一冊。その行間からは、多くのことを学ぶことができるはずです。
Source: フォレスト出版