Ctrl+Z 忘れられる権利 メグ・レタ・ジョーンズ著

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Ctrl+Z 忘れられる権利

『Ctrl+Z 忘れられる権利』

著者
メグ・レタ・ジョーンズ [著]/石井夏生利 [監修]/加藤尚徳 [訳]/高崎晴夫 [訳]/藤井秀之 [訳]/村上陽亮 [訳]
出版社
勁草書房
ISBN
9784326451234
発売日
2021/02/01
価格
3,850円(税込)

書籍情報:openBD

Ctrl+Z 忘れられる権利 メグ・レタ・ジョーンズ著

[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

 インターネットが世界に広まってから四半世紀が過ぎた。日々気の遠くなるような膨大な情報が生み出されているが、私たちは検索エンジンの進歩によって簡単にそれを取り出せる。しかし、情報は便利で役立つものばかりではない。ある個人にとって好ましくないものも含まれる。

 ネットで拡散されたデジタル情報は、何をどこまで残す(または消去する)のか、そして、それを判断するのは誰なのかといった根本的な課題を抱えている。そこに、デジタル先進国であるヨーロッパとアメリカのプライバシーをめぐる概念の違いも絡まり、大西洋を挟んだ両地域のデジタル情報をめぐるダイナミックな動きから目が離せない。

 本書は、グーグルに対する過去の情報の削除要求などデジタル社会で浮上してきた「忘れられる権利」という新しい概念を知るための入門書だ。ただし、「歴史を保存するか、不名誉を削除するか」といった二項対立論ではなく、過去に対する赦(ゆる)し(デジタル贖罪(しょくざい))がどこまで可能かという思想的命題が中核にある。しかも、意外なことに、デジタル記録は紙の記録より脆弱(ぜいじゃく)で技術的にも物理的にも永続的に残らない。思想に加えて技術論も咀嚼(そしゃく)した上で、自分たちだけのものにできなかった情報が間違った人ではなく、正しい人(アーキビスト)の手にわたるためのデジタル情報管理を、筆者は提唱する。

 コロナ禍で日本はデジタル後進国であることが露呈してしまった。事態は、政府が旗を振って何でもデジタル化すれば先進国に追いつけるといった話ではない。すでに欧米ではデジタル情報そのものをめぐる思想が戦わされ、哲学が議論され、ビジネスや外交にも影響を与えている。

 何でも個人情報で済ませて本質的な議論が深まらない日本。デジタル先進国に追いつくためには技術や制度以上に思想や哲学が必要であることを本書は教えてくれる。石井夏生利監訳。

 ◇Meg Leta Jones=米ジョージタウン大コミュニケーション・文化技術学部准教授。

読売新聞
2021年3月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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