MMTは何が間違いなのか? ジェラルド・A・エプシュタイン著

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MMTは何が間違いなのか?

『MMTは何が間違いなのか?』

著者
ジェラルド・A・エプシュタイン [著]/徳永 潤二 [訳]/内藤 敦之 [訳]/小倉 将志郎 [訳]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492654927
発売日
2020/12/18
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

MMTは何が間違いなのか? ジェラルド・A・エプシュタイン著

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

 主流派経済学がこだわる「緊縮財政」に強く反論したことで、一躍有名になった現代貨幣理論(MMT)。コロナ禍で財政出動が相次ぐ事態を「MMTモーメント」と呼ぶことがあるそうだ。MMTは「主権通貨を発行する政府の支出はそれに先立つ収入の確保を必要としない」と主張しているからである。

 MMTに関する議論の多くは、その「貨幣論」に焦点を当ててきた。これに対して本書の特徴は、MMTの主張するマクロ経済政策が現実に適用される際の問題点を制度的・実証的観点から検討する点にある。

 批判の論点は多岐にわたる。MMTでは政府支出の資金が中央銀行により自動的に調達されると想定されるが、多くの国の制度はそうなっていない。また、MMTの政策は自国通貨を持ち経済政策を自律的に実行できる国でのみ適用可能で、途上国の一部では適用できない。複数の国際通貨が競合する状況では、国際通貨を発行するアメリカですら、MMTの適用を制限される。MMTで想定される低金利政策が金融不安定性を招来する可能性が十分考慮されていないなどの指摘である。

 こうした論点の中で評者の興味を惹(ひ)いたのは、制度と経済学との関係である。財政と金融の政策がそれぞれ政府と中央銀行に分担される現行制度は、経済理論が整理される中で徐々に進化してきたもので、部分的には経済学が制度をつくっている面もあるのだ。このことは、MMT政策の実施が現行制度のもとで困難なことを理解させてくれる反面、新しい経済学が新たな制度を創り出す可能性をも予感させてくれる。

 著者は非主流派経済学者としてMMTと多くの観点を共有する。その批判は鋭いものの、経済政策としての実効性を高めるために、MMTの研究がどの方向で鍛えられねばならないかを示す建設的批判である。今後の論争点を知るうえで大いに参考になる本だ。徳永潤二、内藤敦之、小倉将志郎訳。

 ◇Gerald A.Epstein=米マサチューセッツ大アマースト校経済学部教授、同大政治経済研究所共同所長。

読売新聞
2021年3月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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