『平成都市計画史』
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平成都市計画史 饗庭(あいば)伸著
[レビュアー] 古田隆彦(現代社会研究所長)
◆住民と市場主導の「民主化」
町に集まる人々が好き勝手に家を建てたら、多分野放図な街が生まれるだろう。そこで、お役所が先頭に立ち、街の形を作ってきた。都市計画という公的ルールである。
日本の都市計画は明治期に始まり、大正期の旧・都市計画法を経て、昭和中期に新・都市計画法として整備された。その後、人口増加と経済成長に支えられて成熟段階へ達したが、平成期に入ると、さらなる進化を遂げた。本書では、平成三十年間の推移を多角的に振り返る。バブル経済の崩壊、人口減少の進行、災害の頻発など、戦後の社会が大きく変わる中で、行政、住民、市場という主体は、住宅、景観、災害、土地利用にどのように関わってきたのか。
住宅では公営住宅の民営化と困窮者向けセーフティネットの制定で市場が拡大し、景観では住民主導が先行したものの、先行きはなお不透明。災害では防災都市の実現に向けて、行政と住民が常に動員される仕組みが作られ、土地利用ではコンパクトシティ・プラス・ネットワークという目標が新設された。
計画を遂行する主体も大きく変わった。地方分権の進展で市町村の立場が強まり、コミュニティ思潮の浸透で住民の対応力が上昇し、規制緩和と特例措置区域の拡大で市場の活性化が進んだ。住民と市場の立場が強化された結果、タワーマンション開発、歴史的町並み保存、商業地活性化、災害からの復興、工業地拡大、耐震改修促進などを民間で主導する力が育ってきた。「革命なき民主化」の到達点だ、と本書は称(たた)える。
その上で、令和以降を「民主化と、その先にある原野化」と展望する。しばらくは住民と市場の立場が拡大するものの、やがては人口減少の影響で両者も縮んでいく。街づくりは不要になるから、「よりよい原野」をめざせという。
この展望には賛否が分かれるかもしれない。だが、都市計画史の詳細な紹介と主導力の変化に関する緻密な分析には極めて説得力がある。都市や建築の関係者はもとより、住宅・不動産産業に関わる人たちにも必読の一冊である。
(花伝社・2750円)
1971年生まれ。東京都立大教授。専門は都市計画・まちづくり。『都市をたたむ』など。
◆もう1冊
諸富徹著『人口減少時代の都市 成熟型のまちづくりへ』(中公新書)