『これでおしまい』篠田桃紅著 激動人生象徴する「遺作」

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これでおしまい

『これでおしまい』

著者
篠田 桃紅 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065177174
発売日
2021/04/01
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

『これでおしまい』篠田桃紅著 激動人生象徴する「遺作」

[レビュアー] 喜多由浩(産経新聞社 文化部編集委員)

 3月1日に107歳で亡くなった美術家の篠田桃紅(とうこう)さんは、人気作家でもあった。100歳を超えてからの驚異的なベストセラーと、それに続く出版ラッシュは記憶に新しい。残念ながら、108歳を迎える誕生日(3月28日)に合わせて準備を進めていた本書がタイトル通りの遺作となってしまった。

 本書は、大正(2年生まれ)、昭和、平成、令和…と4つの時代を生き抜いた激動の「人生編」と、桃紅さんの孤高・自由な生き方を象徴する「ことば編」で構成されている。

 生まれたのは、日本の租借地だった関東州の大連(だいれん)(現・中国東北部)。パリを模してロシアが青写真を引き、日本が完成させた夢の都はエキゾチックでハイカラ。生活レベルは内地(日本)よりも高かった。父親は会社の支社長で、オフィス兼自宅は3階建て。1歳までしかいなかった生まれ故郷だが、母から聞いた思い出が本書につづられている。《ロシア風の西洋的な生活》《(東京に戻っても母は)カステラや美味(おい)しいオムレツをつくってくれて…》。「外地」の香りは、海外へ雄飛した、その後の作家人生の原点になった気がしてならない。

 関東大震災、東京大空襲、そして敗戦。昭和31(1956)年にプロペラ機に乗って渡米したときは、40代になっていた。2カ月の滞在許可を毎回、弁護士と移民局へ行って延長を繰り返し(約2年間滞在)、現地での展覧会が評判を呼ぶ。それからの桃紅さんは、日本よりむしろ海外での評価が高い。

 《人生は最初からおしまいまで孤独ですよ。一人で生まれ、一人で生き、一人で死ぬんです。誰も一緒にはやってくれません》。ことば編にこうある。世界を舞台に単身、闘い抜いた作家の覚悟を感じるが、ご本人にそんな気負いはなかったのかもしれない。《その日その日の風にまかせて生きている。今日やりたくなければやらなきゃいい。よく言えば自由、悪く言えば自堕落》には、思わずニヤリとさせられてしまう。

 100歳を超えてなお現役の姿はどれほど高齢者らに元気を与えたことか。《老いるということは衰える一方じゃない。ほんの少しだけどプラスになっている面がある…》。同感である。(講談社・1540円)

 評・喜多由浩(編集局編集委員)

産経新聞
2021年4月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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