『今宵は誰と[2]─漫画で読む名作の中の女たち─』
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若者の手にした本が広げる心の世界と現実社会での人間関係! 読書の楽しさそのものを物語にした鬼才の異色コミック、待望の後篇がついに登場!
[レビュアー] 日下三蔵(書評家)
名作に登場する魅力的な女性たちが、もし自分の夢に登場したら、どんなストーリーに変わるのだろう……。タイトルは知っているけれど未読のものや読んだけれど忘れてしまった名作のあらすじが読めるのも嬉しいポイント。女性とブンガクが大好きな漫画家が描いた「全く新しい文芸漫画」の第二弾。本書の読みどころについて書評家の日下三蔵さんが解説する。
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ほぼ四年にわたって「小説推理」に連載された喜国雅彦の読書コミック「今宵は誰と」の完結篇が刊行された。第二弾には後半の20話分が収録されている。
主人公の加藤春男は転勤で福島にやってきた若者だが、暇を持て余して、それまであまり読んだことのなかった小説を読み、その面白さに引き込まれていく。最初は少々SM趣味のある部長に、次いで居酒屋で出会って意気投合した美女・蕙の勧めで、春男の読書生活は充実したものになっていった。
春男が一冊の本を読むと、その夜の夢に小説に出てきた女性が登場する、というのがシリーズの基本パターン。夢の中の美女たちは奔放で、小説のストーリーと春男自身の置かれた状況を踏まえて、さまざまなシチュエーションが描かれていくのだ。
松本清張『鬼畜』、山田風太郎『甲賀忍法帖』、恩田陸『六番目の小夜子』、天藤真『大誘拐』のようなミステリ系の名作も取り上げられているが、これはむしろ少数派で、夏目漱石『草枕』、芥川龍之介『好色』のような古典文学からアンデルセン『マッチ売りの少女』のような童話、O・ヘンリー『賢者の贈り物』、ポール・ギャリコ『雪のひとひら』などの海外文学、金原ひとみ『蛇にピアス』のような純文学まで、とにかくジャンルの幅が広い。
イヤミスの最高峰というべき山川方夫の傑作短篇『夏の葬列』や、著者自身の代表作であるコミック『月光の囁き』までもが料理されているのが凄い。
友達以上恋人未満という感じの蕙さんとの関係が、進展しそうで進展しないのがもどかしい。それでもすれ違いになると思われたクリスマス回では、クリスマス・ストーリーの定石通り、最後にささやかな奇跡が起こるのだ。
春男の人間関係の変化が描かれる現実世界パートと、小説に登場した女性たちとの妄想が描かれる夢パートが、絶妙な形でリンクしていくところが、この巻の読みどころといっていいだろう。
小説という虚構を楽しむ行為は、単に作り物の世界を体験することではなく、実際の人生にも影響を与えうる大きな力なのだ。喜国さんは、物語の持つ力そのものを物語にする、という離れ業に挑んで、見事に成功を収めている。
この欄でシリーズ第一巻をご紹介したときの結びと同じことを、今回も言っておこう。本書は、読書好きなら満足間違いなしの傑作である。