原発事故「本当の責任者」を追及せず露呈した政治家としての要領の良さ

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東電福島原発事故 自己調査報告

『東電福島原発事故 自己調査報告』

著者
細野豪志 [著]/開沼博 [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784198652739
発売日
2021/03/01
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

原発事故「本当の責任者」を追及せず露呈した政治家としての要領の良さ

[レビュアー] 山村明義(作家・ジャーナリスト)

「震災時に政府にいた、そして今も政治の世界にいる人間として、私は覚悟を決めています。浜通りをはじめ福島の将来のために尽力し続けることは、私自身の使命だと思っているんです」

 旧民主党の菅直人総理の補佐官から原発事故収束・再発防止担当大臣、環境大臣を務めた細野豪志衆院議員はこう述べている。

 あの東日本大震災から10年の今年、政治の当事者が「過去の私自身が行った政治決断の責任を問う作業」を行うことには、確かに重要な価値がある。

 とくに細野氏が、福島第一原発の事故当時、総理の言動を最も知りうる責任者であった意味は大きい。だが、細野氏の本書で綴る言葉は、いま読んでいても、どこか「他人事」に見えてしまうのはなぜなのだろうか。

 本書では、編者である社会学者の開沼博氏のほか12人の関係者が登場し、これまでマスメディアにほとんど登場しなかった近藤駿介元原子力委員会委員長は、福島第一原発事故の起きた3月11日から15日にかけての段階で、「すでに『最悪の事態』は起きていた」と認めている。

 構成を担った福島在住ジャーナリストの林智裕氏が、事故後日本全国で沸き起こった福島への風評被害の原因を「ジャーナリズム」と「リベラル」に置いていることも十分賛同できる。

 しかし、一方の細野氏は、その「リベラルの代表格」であった当時の菅直人総理が3月12日午前、福島第一原発へ視察に向かうのを止めず、同月15日には東電本社に直接乗り込み、「撤退はあり得ない」「命懸けでやれ」と怒鳴る、常軌を逸した行為も看過していた。

 私は細野氏の『証言』(2012年 講談社)も併読したが、ここでも菅直人氏の責任を問う言葉は一言もなかった。

 現在の細野氏は無所属ながら自民党二階派に所属し、立憲民主党の最高顧問を務める菅氏とは袂を分かち、異なる政治の道を歩んでいるはずだ。にもかかわらず、菅氏の政治責任を問う言葉は一切、発せられていない。

 恐らく彼は、あの原発事故を「本当の責任者」のせいにすることを避けているのであろう。

 だが、それは本書の検証価値を低下させると同時に、細野氏自身の政治家としての「要領の良さ」という性格を曝している。

「私は歴史法廷で罪を自白する覚悟を持って本書を書いた」

 と本書の前書きには記されているが、原発事故当時のあの総理大臣の「政治責任」という重い扉を同時にこじ開けなければ、「福島の将来のため」とする言葉は美辞麗句に聞こえかねない。

新潮社 週刊新潮
2021年4月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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