『冷酷 座間9人殺害事件』
書籍情報:openBD
史上最悪のシリアルキラー 公判で見せなかった“別の姿”
[レビュアー] 高橋ユキ(フリーライター)
2017年10月、神奈川県座間市にあるアパートの一室で、男女9人のバラバラ遺体が発見された。死体遺棄容疑で逮捕されたのは、その部屋に住んでいた白石隆浩(27=当時=)。のちに強盗・強制性交等殺人や強盗殺人、死体損壊・遺棄で起訴され、昨年9月から東京地裁立川支部で開かれた裁判員裁判にて死刑が言い渡された。弁護人は控訴を申し立てたが、白石がこれを取り下げ、今年1月、死刑が確定している。
9人もの男女を次々に殺害してその遺体をバラバラにし、一部を遺棄するという「犯罪史上まれにみる悪質な犯行」(判決文より)を犯した白石については、公判が始まる前から多くの記者が拘置所へ出向いて面会取材し、彼の言葉を報じてきた。そこで耳目を集めたのは“金を払えば話す”という取材に対するスタンスだ。つまり白石への面会は、利益供与による情報の入手を意味する。昨年7月からの面会録と、同年9月からの公判記録で構成される本書で、それについて触れないわけにはいかない。興味津々でプロローグを開くと、著者はもっともらしい御託を並べるわけでもなく、「私個人の知りたい、見てみたい欲求を満たすことを優先させることにした」と、ジャーナリズムをあっさりと放棄していたのである。その清々しいまでの宣言に、驚きながらも心を鷲掴みにされた。なぜならば、本書を読む者はおそらく皆、白石を、そして事件を知りたいという、著者と同じ気持ちを持っているからだ。
本編の面会録には、続く公判記録で見せる白石とはまた別の姿がある。おぞましい遺体の解体内容を振り返ったかと思えば、写真集の差し入れを要求。話しやすそうな雰囲気でありながら、決して手の内は見せていないように思える。著者との面会も、突然終わった。事件には「闇」があるとよく言われる。彼は「闇」を決して見せない。誰にも本心を晒すことなく、執行の日を迎えるのだろう。