ロッキードからサリンまで虚実を巧みに組み合わせた公安小説

レビュー

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  • 東京輪舞
  • 絶叫
  • 赤朽葉家の伝説

書籍情報:openBD

ロッキードからサリンまで虚実を巧みに組み合わせた公安小説

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 昭和から平成へ、歴史の裏街道を歩く。月村了衛『東京輪舞(ロンド)』は、一人の公安警察官の目を借りて紡がれる、暗黒の日本現代史小説である。

 昭和四十九年初夏、当時の内閣総理大臣である田中角栄邸の警備に当たっていた砂田修作巡査は、不審者との格闘により負傷し、入院する。その病室に、何と首相である田中角栄が見舞いにやってきたのだ。いち警官に過ぎない自分に対し温かい言葉をかける田中に砂田は感激し、敬愛の念を抱くようになる。その一年後、警視庁公安部に配属された砂田は特別な任務に就く。それは元ロッキード社員の身柄を確保することだった。

 ロッキード事件に始まり、東芝機械COCOM違反事件、ソ連崩壊、地下鉄サリンなど、昭和と平成の世を揺るがした大事件の隠された裏側を公安警察という立場から砂田は覗くことになる。

 作中では田中角栄の他にも現代史を騒がせた実在の傑物たちが続々と登場する。彼らに対する大胆な人物解釈が提示されると同時に、それが謀略ものの興趣に絡むことで、意外な展開を生み出すのだ。虚実を巧みに組み合わせた公安警察小説である。

 昭和から平成に渡る個人史を辿る事で、現代社会に噴出する様々な問題の根源を探る犯罪小説が葉真中顕『絶叫』(光文社文庫)である。“鈴木陽子”という女性の半生を追う内に、読者は蟻地獄のように堕ちるしかない人生が直ぐ傍に存在している事に気づき、戦慄するに違いない。ミステリとしての仕掛けも独創的で、ラストの光景は衝撃であるとともに、一種の突き抜けた感覚を味わえる。

『東京輪舞』や『絶叫』が現代日本の暗黒面を描く年代記だとすれば、桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』(創元推理文庫)は、鮮やかで壮大な家族史を綴った小説だ。

 千里眼を持つ祖母、万葉。十三歳にしてレディース〈製鉄天使〉を率いた母、毛毬。何者でもない主人公の瞳子(とうこ)。鳥取の旧家を舞台に、高度成長期からバブル崩壊に至るまでの時代を背景にした女性の三代記は、謎と美しさに満ちている。

新潮社 週刊新潮
2021年4月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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