『寿命遺伝子 なぜ老いるのか 何が長寿を導くのか』
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“人類究極の夢”へ 研究者たちの戦い
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
始皇帝以来、不老不死は人類の究極の夢だ。医学や衛生環境の進歩などで平均寿命は延び続けているが、最高寿命は一二〇歳あたりが今のところ限界らしい。では、寿命はどうやって決まっているのか、今以上に寿命を延ばすことは可能なのか――とは、誰もが考えることだろう。
森望『寿命遺伝子』は、生物の寿命を司る遺伝子研究の最先端を解説した一冊だ。内容はかなり高度だが、不老長寿へ迫りつつある研究者たちの戦いぶりが、エピソードも交えて描かれ、興味深く読むことができる。
一九八〇年代から、変異させるとその生物の寿命が延びる遺伝子が次々と発見された。ではそれらの遺伝子は、具体的にどのような働きをしているのか? その解明により、寿命についての理解は大きく進んだ。
だが、それだけで長寿の薬ができるというほど、話は簡単ではない。認知機能低下、テロメアの短縮、活性酸素による組織の破壊などなど、老化は様々な形でやってくる。しかし老化を統御する「急所」らしきところは判明しつつあり、動物実験で寿命を延ばす効果のある化合物も見つかっている。長寿の薬は、今や全くの夢物語ではなくなりつつあるのだ。
これまで見つかってきた寿命遺伝子は、生存期間を延ばすのでなく、各種の老年病のリスクを下げる方向で働くという。こうした研究によって、健康に過ごせる期間が延びるなら朗報だ。いたずらに寿命を延ばすより、そちらを期待したい。