<東北の本棚>街の実態 容赦なく批評

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<東北の本棚>街の実態 容赦なく批評

[レビュアー] 河北新報

 「街に特徴がなくて地味」「観光スポットがない」「リトル東京」。くすっと笑える「仙台あるある」の背景には、笑えない現実が広がっていた。
 本書は全国各地のイメージを取材や統計データで検証し、地域の姿を明らかにするご当地分析本「地域批評シリーズ」の仙台版。「伊達政宗ばかり」と揶揄(やゆ)される仙台の歴史やまちづくり、「牛タン、ずんだ餅」にとどまらない仙台グルメ、「運転マナーが悪い」と評される市民性の実態をあぶり出し、進むべき未来を探る。
 バラエティー色の強いテーマや、ややくだけた文体とは裏腹に、筆者の評価は容赦ない。「東北最大の商都・仙台」は「商業しかない」と一刀両断。農業の生産額は全産業のわずか0・9%で、大きな工業地帯はなく、気仙沼や石巻に依存して漁業はからっきし。典型的な支店経済都市として仙台駅前の一極集中が進んでおり、軟弱化する郊外の活性化が必要だと訴える。
 伊達政宗から受け継がれた仙台人の気質は「怠け者」と断言。人口減少が差し迫る中、ハコモノ整備に終始し、「仙台ブランド」を過信する行政は楽観的で時代遅れだと指摘する。IT化やテレワークが進む現代では、東京から近い仙台に支店を置くメリットはなく、本社を移転させるインセンティブにも欠けるという。
 一方で、希望を感じる話題もある。例えば、若林区は「地味で目立たないが仙台のダークホース」。仙台市地下鉄東西線の開通で住宅地や大型商業施設の開発が相次ぎ、地価が上昇中だ。ライブハウス「仙台ギグス」を旗振り役として楽器店やバーを呼び込み、音楽によるにぎわい創出を提案する。
 住みやすく医療環境の良い仙台は、街としての実力は日本屈指という。自虐ではなく、笑顔で自慢できる仙台を目指してみませんか。(江)
   ◇
 マイクロマガジン社03(3206)1641=1078円。

河北新報
2021年4月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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