東大寺の考古学 鶴見泰寿著

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東大寺の考古学

『東大寺の考古学』

著者
鶴見 泰寿 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784642059183
発売日
2021/02/19
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

東大寺の考古学 鶴見泰寿著

[レビュアー] 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

 副題「よみがえる天平の大伽藍(がらん)」が示すように、史料・古絵図とともに東大寺旧境内の発掘調査成果によって、東大寺の創建伽藍を立体的に復元する内容。境内では、建物改修や防災工事の際に、210件以上の小規模な発掘が行われてきた。地味な調査の蓄積により、古代の伽藍建築や造営関係の遺跡・遺物そして木簡などが見つかり、様々な歴史情報が得られている。そうした個々の発掘成果のモザイクをつなげ、『続日本紀』、『東大寺要録』、正倉院文書などの史料、絵図や、現存する建築・仏像など古代文物とも総合して、天平創建期の伽藍を再現する推理の過程は、興味に満ちている。

 奈良はどこを掘っても遺跡がある地で、東大寺旧境内ともなると、古代・中世・近世・近代にわたる建物群の造営・修理の遺跡が幾重も積み重なる。聖武天皇の発願に多くの人々の協力で実現した古代東大寺は、平重衡(しげひら)による南都焼き討ちや松永久秀による戦乱での焼失など大きな被害を受けつつその都度乗り越えて、大寺の偉容を今に伝えている。本書は、限られた古代の文物・史料や発掘成果そして先行研究から、創建伽藍の姿を検証する。

 とくに、東大寺の山寄りに現存する法華堂の当初の建物構造や須弥壇(しゅみだん)上の仏像群、葺(ふ)かれた瓦や造営事業について、史料・絵図、仏像や発掘成果そして年輪年代学の新たな成果によって、東大寺前身寺院の姿や法華堂の造営過程を追求する。創建を瓦の年代から天平12年(740年)以降とみる従来の説に対し、部材年代から天平年間(729~749年)のはじめ頃と見直す。また、大仏殿西廻廊(かいろう)隣接地の遺物や出土木簡から、大仏鋳造の具体的な過程を明らかにするなど、東大寺の原像を読み解く新研究は刺激に富む。

 東大寺の歴史を解くには、古代史・考古学だけでなく美術史・建築史・仏教史などの多角的な検討が必要であり、また古代から近代に至る変遷をふまえなくてはならない。本書は、そうした総合的な検証の実践として、わかりやすく説得力に富んでいる。

 ◇つるみ・やすとし=1969年生まれ。奈良県立橿原考古学研究所資料係長。著書に『古代国家形成の舞台 飛鳥宮』など。

読売新聞
2021年4月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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