アルツハイマー征服 下山進著 KADOKAWA

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アルツハイマー征服

『アルツハイマー征服』

著者
下山 進 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784041091616
発売日
2021/01/08
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

アルツハイマー征服 下山進著 KADOKAWA

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

 たくさんの研究者たちは何を考え、何に挑んできたのか。成果を手に入れた者もいれば、敗れ去った者もいる。進行性の認知症であるアルツハイマー病の治療薬開発がテーマの大力作だ。

 神経細胞におけるアミロイドβタンパク質の蓄積がアルツハイマー病の原因であるとする説が有力である。それを防ぐことができれば根治薬になるのではないか。デール・シェンクの独創的な発想により、その研究は始まった。

 アミロイドβに対する免疫反応を利用した治療法である。医学の「常識」からいくと、とても無理だとしか思えない方法だ。ところが、マウスの実験でアミロイドβを注射すると、シェンクの予想どおり、アミロイドβに対する抗体ができ、アルツハイマー病を発症しなくなった。

 しかし、ヒトの治験では、脳炎の副作用が出たために中止を余儀なくされた。それでもシェンクは諦めない。アミロイドβに対する抗体を投与する方法に切り替えた。残念ながら、それも効果はなかった。20年近くもかけた研究が水泡に帰し、完膚なきまでに打ちのめされる。

 その研究にヒントを得た会社が、少し違う抗体による治験をおこなった。どうやら効果がありそうだと知った時、シェンクは全く悔しがることなく、心から喜んだ。「自分が信じていたことが、たとえ他人の手であれ実証されたのだから。何よりも患者とその家族にとっていいニュースだ」と。科学者の鑑(かがみ)だ。素晴らしすぎる。

 登場する数多くの研究者の中には、アルツハイマー病の症状を抑える薬を開発した杉本八郎をはじめ、日本人もたくさんいる。すべての研究者にとって自分の研究は壮大なドラマであるということを知ってもらえたらとても嬉(うれ)しい。

 著者の下山進は、20年近くもの歳月をかけて国内外の関係者にインタビューを重ね、この本を完成させた。わたしが知る限り、このレベルの医学ノンフィクションは本邦初だ。その意味からも、ご一読をぜひオススメしたい。

読売新聞
2021年4月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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