考えすぎて独特な発想に辿り着く ありがたいかどうか微妙なおことば

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きんげんだもの

『きんげんだもの』

著者
水野しず [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344037519
発売日
2021/03/24
価格
1,540円(税込)

考えすぎて独特な発想に辿り着く ありがたいかどうか微妙なおことば

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 水野しずという人が何者なのか説明するのは難しいが、とりあえずの肩書は「イラストレーター/コンセプトクリエイター」。要は、独特な絵と独特な発想で知られる人で、ボクとよくイベントもやるんだが、彼女はその独特な発想に辿り着くまでに熟考しすぎて頭をかきむしり、ステージ上で無言になることも多数。

 なぜ彼女がなんてことのない質問にすら真摯に答えようとするのかというと、こういうことらしいのだ。

「思うに私は説明責任を重く受け止め過ぎている。実際、質問している人もそこまで正確な回答が返ってくることは期待していないし、いわゆる会話のテクニックとして、会話自体の内容よりもスムーズかつ朗らかに話者のバトンが受け渡しされる状況を望んでいる」「私は、質問行為に対しての著しい義務感・全面回答意欲から、しなくてもいい苦労を勝手に抱え込んで勝手に苦しんでいるのだった。そんなに頑張らなくていい。熱心に聞かれていないことは、そう熱心に返さなくてもいい。それだけのことが、わからない」

 ボクはサブカルのことを「考えないでいいようなことを考えすぎる病のこと」と勝手に定義付けているんだが、そういう意味でいうと彼女はまさにサブカルの申し子。いつでもそこまで考えすぎるからこそ、独特な発想へと辿り着くわけなのだ。

 これは、そんな彼女による「ありがたいかどうか微妙なおことば」を集めた一冊。「事実は小説より奇なり…ケース・バイ・ケース」「『きもちの問題』だからと言うが、きもちの問題が一番どうにもならない」「仏の顔も三度までと言うが、我々は人間なので二度目はないぞ」「我慢できるかどうかを考えている場合それはもう限界」なんて感じで、多くの人がなんとなくそのままにしておきがちなことにマジレスを返す彼女を見ていると、世の中の「金言」は断定しすぎで、ほとんどがケース・バイ・ケースだと思うばかりなのであった。

新潮社 週刊新潮
2021年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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