物語で外国語学習 種火を維持させる「黒田マジック」

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書籍情報:openBD

物語で外国語学習 種火を維持させる「黒田マジック」

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

 外国語を始めたいと思ったら、入門テキストと一緒に黒田龍之助氏の本も購入するといい。そして時々開くといい。どの著作からも伝わってくる「言葉の世界に分け入ることの楽しさ」が、消えてしまいがちな種火を維持する最高の燃料になってくれるから。

『物語を忘れた外国語』は、大学でロシア語を教え、英語はもとよりチェコ語やクロアチア語などにも精通している著者が、物語で外国語を学ぶ意義と悦びを綴ったエッセイだ(つまり、タイトルには逆説的な意味が込められている)。外国語学習は長編小説に限る、分からない箇所があっても気にせず読んでいくのがいい、すべてを分かろうとしないことが大事だ、と著者は説く。いやー、そうは言っても原語で読むのはハードル高いよねえ、と思うけれど、出来るかもしれないと思わせるところが黒田マジック。スウェーデン語への想いを膨らませ、タイトルに「スウェーデン」とあるだけでフランス小説を読んでしまう(!)ほどに外国語への愛を持ち合わせた人の熱が、じわじわと読者に伝染してくるのだ。

 言葉は面白いと再認識させてくれる本はたくさんあるが、国語学者の大野晋氏が読者からの疑問に答えた『大野晋の日本語相談』(河出文庫)をめくっていると、自分がいかに日本語を知らないかが分かってなぜか笑いがこぼれてしまう。〈「いいじゃないの」は、よくないはずなのに、どうしてほめことばなのでしょうか〉〈「白い」「黒い」「青い」というのに、なぜ「緑い」「紫い」「茶い」がいえないのか〉など、確かに、とつぶやかずにはいられない謎が丁寧に解かれていく。

 日本語教師の手にかかると、文法もエンターテインメントになる。清水由美『日本語びいき』(中公文庫)は、ヨシタケシンスケ氏のひとコマ漫画的イラストも最高に楽しい日本語コラム。使いこなせる=分かっている、じゃないんだなあという気付きが快感だ。〈「う」という文字には、ウのほかにオという発音もある〉という言葉に「え?」と思った方、ぜひ読んでみてください。

新潮社 週刊新潮
2021年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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