『伊達女』
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<東北の本棚>政宗を巡る5人の物語
[レビュアー] 河北新報
戦国時代といえば、緊迫の合戦や主従の絆など男たちのドラマに胸が熱くなるが、表舞台には立たない女たちのことも忘れてはならない。仙台藩祖伊達政宗の場合もしかり。福島市の時代小説家が女5人の物語を連作で描き出した。
母の義姫(よしひめ)。毒殺されかかった政宗は母を赦免した上で、弟の小次郎を手討ちにするという苛烈な逸話が伝わる。本書の解釈では、政宗は母のある言動から彼女の潔白を確信。政宗にそう告げられた義姫は感涙しつつ、周囲には疑惑通りの鬼母として触れ回るよう逆に提案する。
義姫は実兄である最上義光(よしあき)と政宗の対立に頭を悩ませ、両軍がにらみ合う国境の峠に乗り込んで80日間滞在の末、和睦をまとめた度胸の持ち主。気性の激しさで相通じる、この親子にしかなし得ない愛情の形を示す。
正室の愛姫(めごひめ)は、天下人秀吉に謀反の疑いをかけられ、流罪を目前にした失意の夫を鼓舞する。政宗の養育係を務めた喜多は、後に京の伊達屋敷の奥向きを取り仕切る重責も担った。秀吉とのある交渉を独断で行い、政宗の勘気を被る。蟄居(ちっきょ)を命じられても一切弁解せず、守り抜いたものは主君の自尊心だった。政宗と愛姫の長女五郎八(いろは)姫は徳川家康の六男、松平忠輝に嫁ぎ、改易と離縁の運命を受け入れる。
伊達家臣片倉小十郎重綱の側室、阿梅(おうめ)。大坂の陣で奮戦した豊臣方の名将真田信繁が決戦前夜、敵である重綱を見込んでひそかに託した実の娘だ。太平の世に入り、阿梅は老いた政宗の昔語りに触れる。「男は心に鬼を飼う」。ならば妻の自分にできることは何か。真田の血を継ぐ阿梅は、もう一つの生きる意味を見いだす。
歴史上、政略結婚や跡継ぎを産んだ記述で済まされがちな女たちも、それぞれに意志と役割を持ち、固有の人生を生きた。著者の公正な視点と抑制の効いた筆致に引き込まれた。(ぐ)
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