自分から誰かにボールを投げない「植物」としてのアンジャッシュ児嶋の魅力

レビュー

6
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俺の本だよ!!

『俺の本だよ!!』

著者
アンジャッシュ児嶋一哉 [著]
出版社
世界文化社
ジャンル
芸術・生活/家事
ISBN
9784418214037
発売日
2021/03/23
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

自分から誰かにボールを投げない「植物」としてのアンジャッシュ児嶋の魅力

[レビュアー] ラリー遠田(お笑い評論家)


初となるエッセイ『俺の本だよ!!』を上梓したアンジャッシュ児嶋さん

天然の枠に収まらない「植物キャラ」

人間には動物タイプと植物タイプがいる。動物は自ら食糧を求めて動き回るが、植物はその場に根を張って動かない。日光を浴びて光合成を行い、土から栄養分を吸収する。ただそこにいるだけで与えられるものを糧として生きていく。

「児嶋だよ!」のフレーズで知られるアンジャッシュの児嶋一哉は、そんな植物タイプの人間である。彼の著書『俺の本だよ!!』を読むとそのことがはっきりとわかる。

児嶋は「天然キャラ」と言われることが多い。だが、彼のとぼけ具合はその言葉で表現できるような生やさしいものではない。「麹町」でロケがあると聞かされていたのに、「児嶋んち」だと思い込み、自宅でずっと待機していた。コーヒーにこだわっているコーヒー専門店にロケに行ってなぜか牛乳を注文してしまった。

極度の味音痴で、牛肉と豚肉の違いもキャベツとレタスの違いもわからない。ただ、テレビの企画でテストされると、そういうときに限って当たってしまう。本当にわからないからわざと間違えることもできないのだ。

極めつきは、ハワイの海でおぎやはぎの小木博明と泳いでいてウミガメを見つけたときのエピソードである。「天然」の次元をはるかに超えたその衝撃の結末は、ぜひ著書を読んで確かめてみてほしい。

児嶋は「考えない葦」である

フランスの哲学者パスカルは「人間は考える葦である」という有名な言葉を残している。それになぞらえて言うなら「児嶋一哉は考えない葦である」ということになる。

もちろん、生き馬の目を抜く芸能界で長年生き残ってきた児嶋が文字通り何も考えていないわけではないだろうし、著書の中ではその思考の一端が明かされてもいる。ただ、生き方のスタイルとして、彼は自ら仕掛けていくことよりも、与えられたものに反応することを主軸にしてきた。

名前を間違えられて「児嶋だよ!」と返すのも、先輩芸人からのフリに瞬間的に反応するタイプの芸である。ボールが来たから打ち返しているだけで、自分から誰かにボールを投げ込むことはない。「反応」することが児嶋のすべてである。

そんな児嶋の「植物」気質は、亡くなった父親譲りだという。パチンコと酒にしか興味がない父は極度の出不精で、どこにも行きたくない人間だった。児嶋は、子供の頃に家族で焼肉屋に行き、その後でボウリングをしたことを鮮烈に覚えている。家族で出かけた思い出がそれぐらいしかないからだ。

ぼんやり生きていた児嶋少年は、中学時代にアイドルに憧れてジャニーズ事務所に履歴書を送った(当然、返事はなかった)。その後、アイドルのように華々しい活躍をしていたテレビの向こう側のとんねるずやダウンタウンに魅了され、お笑いの道に進むことにした。

そこで試行錯誤を繰り返しながらも、『爆笑オンエアバトル』『エンタの神様』などのネタ番組に出演して、人気芸人の仲間入りを果たした。


児嶋さんが、ジャニーズ事務所に履歴書とともに送った写真。

騒動とコロナ禍を乗り越えて

近年では相方の騒動が児嶋に大きな影響を与えた。置かれた場所で咲く植物タイプの芸人であるにもかかわらず、相方に代わってMCに挑戦することにもなった。見様見真似で必死で共演者に話を振ったりしている姿は、「はじめてのおつかい」のようで微笑ましい。

新型コロナのせいで収録現場にはアクリル板が置かれ、ほかの出演者の話を聞き取りづらくなった。ぼんやりしているとフリを逃したり、間違ったツッコミを繰り出してしまったりもする。解像度の低い児嶋の視界がますますぼやけていく。この本を読むと、その中でもがき苦しみ、奮闘する彼のことを応援せずにはいられなくなる。

植物が成長を続けられるのは、水を与えてくれる人がいるからだ。先輩芸人をはじめとする共演者、芸人仲間、スタッフやファンに支えられ、不器用に咲き誇る児嶋一哉。その著書に書かれているのは、彼を温かく見守る「みんな」の物語だ。

文:ラリー遠田 撮影:TOWA 編集:宮本珠希

世界文化社
2021年4月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

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