多和田葉子・文、溝上幾久子・絵 「オオカミ県」

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オオカミ県

『オオカミ県』

著者
多和田葉子 [著]/溝上幾久子 [イラスト]
出版社
論創社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784846019723
発売日
2021/04/11
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

多和田葉子・文、溝上幾久子・絵 「オオカミ県」

[レビュアー] 待田晋哉(読売新聞記者)

 秋には乾いた枯れ葉が降り積もり、夜には黒い幕のような闇が訪れる。「オオカミ県」は、四季や時間の移ろいがはっきりと感じられる美しい土地だ。

 けれど、主人公の<俺>はインターネットのうわさ話が気になって、東京へ出てゆく。街は、白兎(しろうさぎ)のような顔をして歩く上品ぶった奴(やつ)らばかりだ――。

 『献灯使』などの小説で世界的に知られる著者は、よく「越境作家」と称される。それは単に、日本とドイツを行き来しながら執筆しているからではない。国や言葉の境目だけでなく、本作は、人間と動物、言葉と絵の世界をやすやすと踏み越える。読む者の心を、じかに握りしめてくる。

 心を覆っていた不安や虚栄、不自然な欲望が剥ぎ取られる。澄んでゆくその奥底から、形のないもの、荒々しくいきり立つものがわき上がってくる。それは、荒野に向かって吠(ほ)えるオオカミの魂。すなわち、野性だ。(論創社、2200円)

読売新聞
2021年4月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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