カンマの女王 メアリ・ノリス著 柏書房

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カンマの女王

『カンマの女王』

著者
メアリ ノリス [著]/有好 宏文 [訳]
出版社
柏書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784760152599
発売日
2020/12/26
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

カンマの女王 メアリ・ノリス著 柏書房

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

 著者が校正者を務めるのは、アメリカを代表する雑誌「ニューヨーカー」。表記法は伝統的で、IBM社のことを古風に「I.B.M.」とピリオドを打って記したりします。その校正者の著した本ならば、さぞや、さまざまな英語の誤りに対する苦言に満ちているのでは。

 怖がらなくても大丈夫。著者は「正しい表現」を重んじてはいます。でも、本書で主に追求されているのは、むしろ、論理的なカンマの打ち方、合理的なハイフンの入れ方など、カッコいい文章にする方法です。著者の英語に対する思いが、若い頃の話や職場でのやりとりなどを織り交ぜつつ語られます。

 「ニューヨーカー」では「a, b and c」というカンマの打ち方は普通しないようです。「a, b, and c」と、bの後にもカンマを打つ。これで「aと、『bおよびc』」という誤解を防げます。著者はこの方式に忠誠を誓いますが、内容ごとに判断するのがいいとも述べます。

 また、著者は「high―school principal」(高校の校長)とハイフンを入れます。「高貴な学校長」という解釈を避けるためです。「high school student」(高校生)ならば誤解はなさそうだけど、ハイフンはどうするか。こうやって<いちいち考えこむのも何が悪い?>。

 本書の原題は「Between You & Me」(あなたと私の内緒話)ですが、現在ではこの目的格を「You & I」と言う人が増えたといいます。著者は不快感を持ちますが、<とっくに負け戦>であるとも認めます。代名詞が語形変化しない日本語にはない苦悩があるんですね。

 行間から、「ニューヨーカー」の文章が、いかに達意と気品を重んじているかが分かります。ただ、著者は<人間(一般人)を校正する習慣はない>と明言します。あくまで、プロの執筆者の髪をとかし、襟を直して、最高の形に整えてあげる。校正者は、そんな信頼できるスタイリストなのでしょう。有好宏文訳。

 ※原題 Between You & Me: Confessions of a Comma Queen

読売新聞
2021年4月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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