若い読者のための文学史 ジョン・サザーランド著 すばる舎

レビュー

5
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若い読者のための文学史

『若い読者のための文学史』

著者
ジョン・サザーランド [著]/河合祥一郎 [訳]
出版社
すばる舎
ISBN
9784799109410
発売日
2020/12/14
価格
3,520円(税込)

書籍情報:openBD

若い読者のための文学史 ジョン・サザーランド著 すばる舎

[レビュアー] 栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

 この本は「文学史」というタイトルだけれど、ヨーロッパ文学概論としても読める一冊。ギリシア・ローマの神話、叙事詩、悲劇にはじまって、近代以降は英文学が話題の中心になる。英語(訳)で読める文学の流れを40の短章でたどる趣向である。

 著者は高名な英文学者にして新聞のコラムニストでもあるひと。「詩聖」シェイクスピア、「巨人」ディケンズ、「偉大なる悲観論者」ハーディなどが並ぶ見出しがにぎやかで、作品を引用しつつ作者と時代を紹介する文章は小気味よい。邦訳も見事だ。詩の引用には英語の原詩が添えられ、原詩を模した押韻を日本語で踏む。音読して舌を巻いた。

 18世紀のロンドンで小説が興隆したのは、資本主義の興隆と同時進行だったから。エミリー・ブロンテの『嵐が丘』に「プロットの穴」が散見するのは、著者の見聞が広くなかったから。ジェイン・オースティンの小説はヒロインの結婚話ばかりなのに「偉大」なのは……。著者の卓抜な解説力は読者を放さない。

 あるいは、著作権、読者層の変化、検閲、文学賞、ベストセラーについて考える章や、映画やテレビ番組への小説の翻案を論じた章には、制度やメディアの視点から文学を見直そうとする、研究の新潮流がかいま見える。

 著者はしばしば「偉大な」という形容詞を用いる。その語り口を大げさと感じる読者がいるかもしれないが、まずは玄人の雄弁な誘いに乗って、邦訳で文学作品を読むことをお勧めしたい。読んだ分だけ心の宝物が増えるのだから。

 最終章では、既存の文学に登場する人物や設定を使ってファンが二次創作をおこなう「ファンフィクション」が取り上げられ、文字以前の語りにあった「流動性が復活している」と評される。文学は今、口承文学へ先祖返りしながら、新たな伸び代を探っているのだ。胸が躍る見立てではないか!

 読了後、次は誰かが、日本語(訳)で読める文学史の新しい歴史を書く番だぞ、とひそかに思った。河合祥一郎訳。

 ※原題 A Little History of Literature

読売新聞
2021年4月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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