『資本主義から脱却せよ』
- 著者
- 松尾匡 [著]/井上智洋 [著]/高橋真矢 [著]
- 出版社
- 光文社
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784334045265
- 発売日
- 2021/03/17
- 価格
- 1,012円(税込)
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資本主義から脱却せよ 貨幣を人びとの手に取り戻す 松尾匡(ただす)、井上智洋、高橋真矢著
[レビュアー] 矢部史郎(ライター)
◆経済を考え直すため格闘
全体に巧みな文章とは言えず、生硬でもある。論点は未整理で、あちらへ行ったり、こちらへ行ったり、読み手にとってはくたびれる本だと思う。そしてくたびれる思いをしながらも、この本には読むべき価値がある。
本書は、なんらかの定説に従って政治経済の論点をスマートに整理したものではない。その反対である。経済と政治について定説となっているものを、もう一度ほぐして、本当にそうなのだろうかと検討し直していく作業だ。そもそも貨幣とは何か。金融とは何か。財政とは何か。生産性とは何か。経済と政治について自明視されているものについて、これまで言われてきたことが本当は違うのではないかと、考え直しているのである。
本書に書かれているのは、資本主義を脱却するための良質な政策提言ではないし、これ一つで万事解決という処方箋でもない。ここにあるのは現代資本主義の行き詰まりを考えるための、いくつもの問いである。手っ取り早い解答を求める人にとっては、物足りない読後感を抱く内容かもしれない。この本に答えはなく、いくつもの問いがゴロンと放り出され、乱反射しているからである。不十分な記述にいらだったり、拾い出す要素が欠けていると感じたり、読者はさまざまな不満を抱くはずだ。
本書は、二人の経済学者と一人の「不安定ワーカー」の合作である。この三人の著者たちの姿に、私は共感をおぼえる。半世紀にわたって支配的な地位に君臨した「近代経済学」のセオリーを、批判的に再検討するという試みは、スマートに格好良くこなせるものではない。革靴を脱いで、ゴム長靴に履き替えて、泥と汗にまみれながら格闘する以外に方法はない。
こうした泥臭い作業の中から、経済学の学術的成果が生み出されるのかもしれない。見せかけの教説ではない、本当に価値のある学術的発見が、新自由主義への批判的検討から生まれてくるはずだ。
<松尾> 立命館大教授。著書『左翼の逆襲』など。
<井上> 駒澤大准教授。著書『MMT』など。
<高橋> 高校中退後、大学の夜間学部卒業。
(光文社新書・1012円)
◆もう1冊
デヴィッド・グレーバー著『負債論』(以文社)。酒井隆史監訳。