『警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』
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【聞きたい。】服藤恵三さん 『警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』
[レビュアー] 喜多由浩(産経新聞社 文化部編集委員)
■技術駆使した捜査支援戦記
この人の志や情熱、アイデアがなければ日本警察の「科学捜査」は、もっと立ち遅れたものになっていたかもしれない。
本書は、警視庁の科学捜査研究所、科学捜査官第1号、初代犯罪捜査支援室長を歴任し、平成7年の地下鉄サリン事件や、和歌山毒物混入カレー事件などで“科学と捜査”の融合に取り組み、テクノロジーを駆使した捜査支援部門を日本の警察で初めて具現化したフロントランナーの激烈な“戦記”である。
圧巻は、サリン生成にかかわったオウム真理教の土谷正実(つちや・まさみ)・元死刑囚と対峙(たいじ)し、“完黙”を続けていた元死刑囚の口を開かせた場面だろう。「2人きりにしてもらい、(土谷元死刑囚の)大学院時代の研究について話しました。私がサリン生成工程や実験ノートにあった反応式を紙に書いてみせたら、急に落ち着かなくなり動揺している様子が分かった。5時間以上も2人で話していたのです」
“落ちた(自供した)”と知ったのは間もなく。捜査1課長からは「(土谷元死刑囚は)『警視庁にはすごい人がいる…黙っていてもしようがない』と話し出したんだ」と聞かされた。著者は事件で使用されたのが「サリン」であると最初に突き止めた技官。化学を理解する者同士の会話がかたくなな心をとかしたのだろう。
その後は、圧倒的に遅れていた地図データや顔認証システム、防犯カメラ映像解析など、最新技術を投入した「捜査支援」部門の立ち上げ、運営に心血を注ぐ。「睡眠時間を削って事件を追う捜査員を少しでも助けたかった。『私にしかやれないことをやろう』と決めた」からだ。
テクノロジーは日進月歩。目まぐるしいスピードで犯罪の技術も複雑化、革新化してゆく。「そのためには『常に勉強』し、対応を『常に考える』こと。そして、もはや警察の力だけではできないこと、を理解すべきでしょうね」(文芸春秋・1870円)
喜多由浩
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【プロフィル】服藤恵三
はらふじ・けいぞう 昭和32年、千葉県出身。東京理科大卒。56年、警視庁科学捜査研究所研究員。平成15年、初代警視庁犯罪捜査支援室長。医学博士。元警視長。現在、警察庁指定シニア広域技能指導官。