それはあくまで偶然です ジェフリー・S・ローゼンタール著 早川書房

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それはあくまで偶然です

『それはあくまで偶然です』

著者
ジェフリー・S・ローゼンタール [著]/柴田 裕之 [訳]/石田 基広 [監修]
出版社
早川書房
ジャンル
自然科学/数学
ISBN
9784152099952
発売日
2021/01/21
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

それはあくまで偶然です ジェフリー・S・ローゼンタール著 早川書房

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

 統計学の観点から出来事を見ればどうなるのか。とりわけ、運がよいとか悪いという出来事はどうだろうか。ローゼンタールの結論はこうだ。「自分にはコントロールできないランダムな運を静穏に受け入れる力と、修正できる運を変える知識と、両者の違いを知る知恵をお与えください」。たとえばある人が遠くの的に弾を命中させたとしよう。しかし、それはまぐれ当たりだったり、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるだったり、あるいは特大の的にすげ替えられていたり、アシスタントが偽りの報告をしたりしたのかもしれない。このような「運の罠(わな)」をかいくぐってはじめて、射撃の名手を雇用できる。

 こうした「運の罠」は射撃だけでなく、あらゆる領域に見出(みいだ)される。13日の金曜日に不幸なことが起こったり、特定の買い方をすると宝くじが当たったり、リンカーンとケネディが似ていたりといった類いの話だ。それらはどれも統計学的にはランダムなただの運であって、何か隠された意味などない。そう、統計学はただの運かどうかを見分ける知恵なのだ。それは、宝くじ売り場の不正を暴いたり、新薬が効果的かどうかを見定めたり、地球温暖化がただの運ではないことを証明したりする。

 興味深いのは、著者が自分の運や量子力学、宗教に向かい合うとき、ややトーンが変わることだ。このキャリアには、能力や勤勉さを超えた幸運が必要であったが、ただの運と言い切れるのか。また、量子力学からすると科学法則自体がランダムになるが本当にそうなのか。そして、宗教なしで人生に意味と喜びを見つけられると思いながらも、ただの運だけで私たちが存在しているとは信じられないでもいる。つまり、統計学は統計学の限界に対して謙虚なのだ。この謙虚さが伝われば、数学以上に嫌われていると著者が嘆く統計学を好きになる人が増えるのではないだろうか。もちろん、それも運がよければ、である。石田基広監修、柴田裕之訳。

 原題:Knock on Wood: Luck, Chance, and the Meaning of Everything

読売新聞
2021年4月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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