戦争が巨木を伐った 瀬田勝哉著 平凡社選書

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戦争が巨木を伐った

『戦争が巨木を伐った』

著者
瀬田 勝哉 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784582842364
発売日
2021/01/22
価格
4,180円(税込)

書籍情報:openBD

戦争が巨木を伐った 瀬田勝哉著 平凡社選書

[レビュアー] 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

 副題は「太平洋戦争と供木運動・木造船」。中世史家の著者が、大学のゼミ生の卒論を契機に、敗色濃い1943年にはじまる「軍需造船供木運動」をめぐる木の社会史と、造られた木造船の行方を史料や聞き取り調査から解明した成果。

 戦争で打撃を受けた鋼鉄船にかわり、政府は物資輸送のため木造船の大量建造を企画した。背景に、鋼鉄船が海軍所管となり、造船・海運を担ってきた逓信省海務院が250総トン以下の木造船を志向したこともあった。

 豊富な木材資源を用いて短期に大量造船するため、山林のほか平地の屋敷林、寺社の樹叢(じゅそう)や街道の並木なども伐(き)り集めようとした。国民の愛国心に訴え供木・献木を得るため、大政翼賛会のもと大日本翼賛壮年団が活躍して、全国運動を展開した。屋敷を守る先祖伝来の巨木や神社の神木の「応召」には、精神的動員が必要であった。

 木造船の材には根曲材(こんきょくざい)が必要で、ケヤキ・ナラ等が向いたが、大量生産のためマツ・スギを代用した。木材の規格品組立て方式を進め、戦時標準船という規格化が図られた。造船では、熟練工のいる従来の中小造船所を整理統合し、大企業の大型造船所を新設した。

 木造船は内海航路の貨物船が中心であったが、「共栄圏」を海でつなぐと宣伝された。造られた木造船は、機関エンジンや鉄釘(くぎ)も不足する状況で、粗製のものもあり、燃料も乏しかった。結局、造船計画の3分の1程の達成で、1944年に南方石油取得に向かった船団は壊滅するなど、木造船が期待通りに造られ活躍することはなかった。

 本書は、個々の供木の現場や事情を詳しく調べ、木造船の造船工程も具体的に解明する。また個人の熱意で日光や箱根の杉並木が守られた事例も紹介する。太平洋戦争で木の総動員や木造船建造が真剣に進められたことは知られてこなかったが、史料や現地の調査により木と人間をめぐる壮大な歴史像が根拠をもって冷静にかつ熱く語られており、読後に深い充実感を覚えた。

読売新聞
2021年4月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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