少年は世界をのみこむ トレント・ダルトン著 ハーパーコリンズ・ジャパン

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少年は世界をのみこむ

『少年は世界をのみこむ』

著者
トレント・ダルトン [著]/池田真紀子 [訳]
出版社
ハーパーコリンズ・ジャパン
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784596552136
発売日
2021/02/17
価格
2,860円(税込)

書籍情報:openBD

少年は世界をのみこむ トレント・ダルトン著 ハーパーコリンズ・ジャパン

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

 2019年にオーストラリアで最も読まれたという本作は、34か国で翻訳され、世界中で話題となっている小説。跳躍する少年を彩るように、周りに青や紫の絵の具が弾(はじ)けている表紙、そしてスケールの大きいタイトルの意味するところは、最後まで読んでから戻ってくるとよくわかる。

 舞台は1980年代、ブリスベン郊外の労働者階級が住む町・ダーラ。12歳の主人公イーライは、口をきかず空中に文字を書く兄と、ドラッグの密売をしている母親とボーイフレンドと一緒に暮らす。生きる上で大事なことをいつも教えてくれるのは、世話役で親友の元脱獄犯のスリム。犯罪と隣り合わせの生活の中でも、ジャーナリストになる夢を抱えて前向きに生きていたイーライだったが、ある日、犯罪の渦に巻き込まれ、日常も家族も壊れていく。はたして少年は世界とどう戦っていくのか――。

 この壮絶な少年の物語、およそ半分は著者自身の体験だという。著者は、犯罪など暗い話題の記事でも詩的で美しい文章を書くことで評判のジャーナリストで、今回が小説家デビューとなる。なるほどその評判通りであることは、翻訳されていても伝わってくる。思いのまま溢(あふ)れ出す言葉はウィットに富んでいて心地よく、ディテールを鮮やかに捉えた描写や豊かな比喩表現によって世界が立体的に広がる。また各章の題が、リズム良く英語3単語で揃(そろ)えられているのも美しいこだわりに感じられる。

 目の前にいるのは善人なのか、悪人なのか。自分の軸を保つためにこの疑問を常に抱き、時には相手にぶつける。そのたびに激しい感情に揺さぶられるイーライはとても危うい。だが、持前の鋭い観察眼、豊かな感受性、確かな表現力をどんどん研ぎ澄ましていく姿は、武器を手に入れた戦士のように勇ましい。少年、世界へ羽ばたく。その冒険を辿(たど)る旅は、わたしたち読者をも成長させてくれる。池田真紀子訳。

原題:Boy Swallows Universe

読売新聞
2021年4月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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