これでおしまい 篠田桃紅著

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これでおしまい

『これでおしまい』

著者
篠田 桃紅 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065177174
発売日
2021/04/01
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

これでおしまい 篠田桃紅著

[レビュアー] 尾崎真理子(早稲田大学教授/読売新聞調査研究本部客員研究員)

 小島信夫氏の連載小説の「画」を依頼し、80代の桃紅さんと知り合った。彼女の描く一本の線が作品となるように、ふとしたひと言が箴言(しんげん)になる、類いまれな人だった。

 1913年、旧満州大連に生まれ、10歳で関東大震災、青春期に戦争を体験し、戦後の混乱期には結核を長く病む。道が開けたのは43歳で単身、ニューヨークへ渡ってから。本書は幼少期に遡る貴重な回顧談と年譜、若き日のポートレートを挟みながら、孤独、自由、苦難、諦念、老い、悟り……。160もの珠玉のことばを収める。桃紅さん自身はそれを「世迷い言」と呼んでいるが。

 <人って、自分で自分に迷う道、迷路をつくって生きている(中略)つくるっていうことが迷うってこと>

 <自然の一部なのよ、私はもう。/雪が降った、雨が降ったというのと同じよ>

 今春107歳で亡くなるまで、こうした語りによる本が多くの読者を引きつけた。しかし本来は極上の文章家で、大正から戦前の暮らしの美を伝える随筆集『墨いろ』『その日の墨』など、忘れ難い。併せてお勧めしたい。(講談社、1540円)

読売新聞
2021年4月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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