『飯舘村からの挑戦』
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<東北の本棚>「までい」に地域を再生
[レビュアー] 河北新報
東京電力福島第1原発事故でまき散らされた放射性物質に汚染され、2017年3月までの約6年にわたって全村避難を強いられた福島県飯舘村。現地では事故後間もなく、科学者や地元農家などで組織するNPO法人「ふくしま再生の会」が発足し、約300人の会員が村の再生に向けた取り組みを続けている。本書は、理事長の著者が活動の10年をまとめた備忘録だ。
元物理学研究者の著者は震災の2カ月後、研究者仲間と共に福島の視察に入る。70歳前後の現役を退いた世代が中心。住民の計画的避難が進んでいた飯舘村で出会った農業菅野宗夫さんのリーダーシップに引かれ、首都圏の専門家と飯舘村民の「協働」を思いつく。菅野さんの留守宅をボランティアの活動拠点に使わせてもらい、11年6月に再生の会を立ち上げた。
目指すのは自然と共生した「までい」(丁寧)な村づくりを続けてきた地域の再生。そのために取り組んだのが、村民が安心して帰還できる環境づくりと情報の提供だ。「外から安全だ、危険だという話ではない」と、会の発足と同時に放射線モニタリングに着手し、詳細な線量マップを作製する。11年の夏に宅地や山林、その冬には凍った田んぼで除染の実証実験を行い、効果的な除染方法の知見を積み重ねた。
著者は土地を追われた村民を「被災者」ではなく、明確な人災である原発事故の「被害者」と表現。「中央政府が破壊した地域の自然や人間生活は、どんなに困難でも地域の力で再生するしかない」と言い切る。その覚悟を示すように、自身も18年、東京から村に移住した。
この長引くコロナ禍も原発事故同様、科学への妄信が引き起こした厄災であり、新しい生活様式にとどまらない「新しい社会目標の構築が求められる」と著者。飯舘村からの問いにわれわれはどう答えるか。(浅)
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筑摩書房03(5687)2601=1034円。