どの口が愛を語るんだ 東山彰良著 講談社

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どの口が愛を語るんだ

『どの口が愛を語るんだ』

著者
東山 彰良 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065223871
発売日
2021/03/17
価格
1,705円(税込)

書籍情報:openBD

どの口が愛を語るんだ 東山彰良著 講談社

[レビュアー] 木内昇(作家)

 一文一文が刺さってくる。時に鋭くえぐるように、時にボディブローのようにじんわりと。思わず肩に力も入るが、不意に差し込まれるユーモアに足首を掴(つか)まれ、気付けば物語世界に引きずり込まれている。四つの短編が収められたこの一冊は、かくも凶暴で豊潤なのだ。

 冒頭から息を呑(の)む「猿を焼く」。東京から九州の小さな町に越してきた中学生の圭一は、周りから浮いている同級生・涌井ユナに惹(ひ)かれていく。暴力的な笹岡、風見鶏よろしく優位な者にへつらう富川。中学卒業後、それぞれの道を歩みはじめた彼らに、ある事件の報(しら)せがもたらされる。圭一の動揺と後悔、そこではじめて悟る自分の正直な気持ちも、その感情の発露のような行動も、皮膚感覚として生々しく伝わってくる。彼らはひとりとして「ありきたり」ではないのに、しかと輪郭をもって生きている。

 間断なく発達する体と、置いていかれる精神。アンバランスゆえに不安定な思春期の日々は、「イッツ・プリティ・ニューヨーク」でも精妙に描かれる。「ぼく」と同じ団地に住む亀(すすむ)、その「アバズレ」の姉である鳥(うた)。性欲に支配されていく少年の様は切実なのに、健やかな滑稽味が宿る。そんな不可思議な一時期を経て、中庸な大人になった「ぼく」は、意外な場所で亀の仕事に接し、こんな感慨を抱く。「言葉を超越したある種の感覚を捉える努力を、自分がまったくしてこなかったことをすこし残念に思った」

 正解も不正解も、成功も失敗も、はなからそんな括(くく)りは存在しないのかもしれない。同性婚合法化後、交錯する四人の様が描かれる「恋は鳩(はと)のように」にも、現状と照らして戦慄(せんりつ)を禁じ得ない「無垢(むく)と無情」にも、確固とした基準さえないままに移ろう世界で、他者と交わりつつ自らの核(コア)に触れんとする人々の姿がある。

 安直な場所に収まらず、高みに挑み続ける作家は、言葉にならないはずの微細で曖昧な感覚を本作でも容赦なくあぶり出してしまった。

読売新聞
2021年5月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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