国家にモラルはあるか? ジョセフ・S・ナイ著 早川書房

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国家にモラルはあるか?

『国家にモラルはあるか?』

著者
ジョセフ・S・ナイ [著]/山中 朝晶 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784152100047
発売日
2021/02/17
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

国家にモラルはあるか? ジョセフ・S・ナイ著 早川書房

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

 当代随一の国際政治学者、ジョセフ・ナイは、経済や軍事のハードパワーとともに他者を魅了するソフトパワーの意義を論じたことで有名だ。私も長い付き合いだが、国際会議でみせる彼自身のソフトパワーにも毎回圧倒される。

 今回の著書もまた刺激的だ。1945年以後、14人のアメリカ大統領の外交をモラル(道義性)の観点から採点するというのだ。ナイほどの学者でなければできない離れ業だ。結論はフランクリン・ルーズベルト、トルーマン、アイゼンハワー、ブッシュ(父)が上位4人で、レーガン、ケネディ、フォード、カーター、クリントン、オバマが中位グループ、ジョンソン、ニクソン、ブッシュ(ジュニア)、トランプが下位。

 ナイは各大統領の外交政策を意図と動機、手段、結果という3つの角度から、その道義性を「よい」「悪い」「評価が分かれる」に分けて採点する。やや粗削りな感もあるが、これは彼も認めているようにナイ個人の評価だ。

 このうち最も評価が高いのがブッシュ(父)で、冷戦終結とドイツ統一を効果的に乗り切ったからで、他の上位3人は戦後の国際秩序形成に尽力したことが大きい。ニクソンとジョンソンはベトナム戦争で、ブッシュ(ジュニア)はイラク戦争で自らを過信して失敗したという。内外の尊敬を集めるケネディはベトナム問題への対応で評価が分かれる。

 ナイは、今後はアジアの復権という力の水平移動とテクノロジーの進化による力の垂直移動にどう対処するかだと指摘する。ナイはトランプのアメリカ一国主義を批判するとともに、自国のパワー誇示に固執することなく、国際協調によって諸外国とともにグローバルな公共財や制度を確立すべきだと説く。

 日本の歴代総理でも同じことができないかと思う。が、道徳や倫理を基準に外交政策を評価できるのは超大国アメリカならではだろう。山中朝晶訳、駒村圭吾監修。

読売新聞
2021年5月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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