「ちょっともってて」と食べかけのアイスを渡されたら、あなたはどうする? わにくんの心の葛藤をコミカルに描いた絵本『わにくんのだめだめアイス』創作秘話を聞きました

インタビュー

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わにくんのだめだめアイス

『わにくんのだめだめアイス』

著者
すみくら, ともこ, 1968-
出版社
星雲社 (発売)
ISBN
9784434288494
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

「ちょっともってて」と食べかけのアイスを渡されたら、あなたはどうする? わにくんの心の葛藤をコミカルに描いた絵本『わにくんのだめだめアイス』創作秘話を聞きました

[文] みらいパブリッシング


アイスを見つめるわにくん

おかしなことや笑えるできごとって、日常のささいな会話や行動から生まれるものですよね。

そうした小さなことを丁寧にひろい集めて、「こんなこと、あるある」「わかる、わかる!」とみんながクスクス笑ってうれしくなるような物語をつくっている絵本作家さんがいます。それがすみくらともこさん。

デビュー作『わにくんのだめだめきゅうり』では、となりの家のきゅうりが自分の庭に入ってきてどうしたものかと悩むわにくんを描き、大ヒット。日本だけではなく台湾でも出版されました。続いてシリーズ2作目となる『わにくんのだめだめアイス』では、みんなが大好きな“アイス”をめぐるわにくんの心の葛藤を描きます。

どうしてこんなに読む人の共感と笑いのツボを刺激できるの? すみくらさんの頭のなかはどうなっているんだろう…。いろいろ気になることを取材で聞いてきました。

アイスが大好きだというすみくらさん。記事の最後で、おすすめの「アイスにちょい足しレシピ」も紹介しているので、そちらもお楽しみに!


絵本作家のすみくらともこさん

この1年は、毎日ドキドキしていました

――デビュー作のシリーズ化が決まり、わにくんたちが世の中に愛されているんだなというのを感じます。

おかげさまで。本当にありがたいことですよね。わたしもそうですけど、欠点だらけのわにくんとぶたくんなのに、こんなにたくさんの人に喜んでいただけて。「いいんですか? わたしたちで」という感じです。

――どちらの絵本も、心配性のわにくんとマイペースなぶたくんの絶妙なかけあいがたまらないですよね。キャラクターのモデルはいるんですか?

わたし、どっちもあるんですよ。わにくんみたいに「どうしよどうしよ」とオロオロすることもあれば、「まぁ、なんとかなるだろ」と思っている自分もいる。どっちの自分もいるような気がします。

――作家デビューからもうすぐ1年ですが、いま改めて思うことや感じていることはありますか?

10年近くひとりで絵本の創作活動を続けてきて、ずっと出版したいと思っていたので、やっと夢が叶ってうれしいです。イメージしていたのと違ったのは、思っていたよりもたくさんやることがあるんだなって。作家さんってじっと座って何か描いているイメージだったのですが、書店への挨拶まわりとか、イベントとか、スケッチや資料集めとか、意外と実際は部屋にいないことのほうが多いかもしれません。

――思っていたより大変ですか?

いえ、大変というより楽しいですけど、この1年は毎日ドキドキしていましたね。世に出るってこういうことか、って。作品が自分の部屋の中だけで終わっていないというか。我が子が舞台に立ったような心境です。「大丈夫なの? わにくんとぶたくん、ちゃんとやっていけているの?」って。

アイスを見つめる息子の「なんとも言えない横顔」が、物語の着想に。

――なんかだんだん、すみくらさんの横にふたりがいるように思えてきました(笑)『わにくんのだめだめアイス』は、時間とともにぽたぽたと溶けていくアイスと、オロオロするわにくんの様子がおかしくも愛おしい物語ですね。ストーリーはどんなふうに生まれたのですか?

わたしには4人の子どもがいるのですが、三男が小さいとき、上のお兄ちゃんと一緒に遊んでいたんですね。そのとき、お兄ちゃんが食べかけのアイスを「ちょっと持ってて」と三男に渡したんです。三男はお兄ちゃんが靴を履いているあいだ、ちゃんと言いつけを守ってアイスを持って待っていたんですけど、その時のアイスを見つめる三男のなんとも言えない横顔が、可哀想でもあり、おかしくもあり…。食べかけのアイスを預けられるって、どんな状況なんだよって。でもアイスって、なにかするときだれかに持っていてもらわないとどうしようもないよなぁ、と。それがずっと記憶に残っていて、いつか絵本にしたいなと思っていました。


わにくんの葛藤がコミカルに描かれます

――日常の、本当に些細なエピソードから着想を得たのですね。

小さい子どもってよく変なことやおかしいことを言いますよね。夫が家に帰ってきたときに「今日はこういうことがあったよ」と報告するためにノートにメモをとりはじめたのが、今も習慣として続いています。ノートがどこかに行ってしまったり、携帯にメモしたまま忘れてしまったりもするけど、また思い出して別の紙に書き留めたり。でもそのときの空気感で書くから読み直すと面白くなかったり。そのなかでも残っていくものがやっぱりあって、そういうものが絵本の物語になっていくんです。

――そういう日常のエピソードって、内輪ネタや自己満足になりやすいと思うのですが、すみくらさんの絵本はエンターテインメントから逸れていないですよね。

わたしももともとは自分の目線で自分の感情を描いた作品が多かったんですよ。でもあるとき、作品を見てもらった作家さんに「すみくらさんはそろそろ母親目線をやめたほうがいい」と言われたんです。たしかに、母親目線で我が子かわいさで描いたものって他の人にとっては面白くないんですよね。よし、母親目線を捨てよう! と思ってつくったのが、わにくんとぶたくんのキャラクターでした。そこから、客観的に見て面白いかどうかをいちばんに考えて絵本をつくるようになったんです。

とにかくアイスが大好き。アイスの描写を見てほしい

――身近なネタをわにくんとぶたくんに置き換えることで、「個人のエピソード」が「みんなのエピソード」に落とし込まれるのかもしれないですね。だれでも「あるある!」と共感できる要素がいっぱい詰まった本作ですが、見どころを教えてください。

アイスの描写を見てほしいですね。自分自身、毎日食べるほどアイスが大好きなのですが、アイスって、溶けていくところも含めて醍醐味じゃないですか。あと、「あたり」が出るところ。今はそんなにあたりつきのアイスは売ってないのかもしれませんが、「昔こんなのがあってね」とお父さんお母さんに懐かしんでもらえたらなって。それから、もっとアイスを描きたいと思って、最後のほうのページにたくさん描いてしまいました。いろいろなアイスを描けて、すごく楽しかったです。


大人になっても「あたり」が出たらうれしいですよね

――すみくらさんは、みんなが読みたいものに、自分の「好き」をうまくかけわせて、とてもいいバランスで創作されているんですね。そもそも、どうして絵本作家を目指したのでしょうか。

よく聞かれるのですが、これというぱちんとハマるきっかけがあったわけではないんです。ただ、子どもを産んでから絵本に触れることが多くなって、絵本ってこんなに良かったんだっけ、こんな表現もできるんだ、と驚いたんです。もともと絵を描くこと、本を読むこと、そして子どもが好きだったので、自然と絵本をつくりたいと思うようになりました。

足りないんですよね、人生が。絶対生まれ変わってやるって思っています

――お子さん4人を育てながら創作活動をするのは大変ではないですか?

今は子どもたちも大きくなったので、だいぶ楽になりました。ほぼ守れていないですが、毎日計画を立ててきっちりやっていますね。毎朝、ノートに子どもたちの予定と、食事の準備に必要な買い物、そして絵本の作業の予定を書いています。家のことをちゃんとやらないと、バランスが崩れて全部だめになってしまうんですよね。絵本の作業は、忙しい日も1日10分でもいいからやるようにしています。そんな感じで少しずつでも進めれば、1年に1冊のペースで本をつくれたりするので。

――最後に、今後の夢や目標を教えてください。

ずっといろいろな絵本をコンスタントに出していきたいです。それから、ここでは言えないけど、夢はいっぱいあります…。

――えっ(笑) 気になります。

いつか、駄菓子屋さんをやりたいんです。ゲームばかりしている子どもたちが、たまにはゲーム機を置いて遊びに来たくなるような。一角に近所の人たちが創作活動を発表できるコーナーをつくったり、お年寄りの方にときどき店番してもらったりするのもいいなって。それからイラストスクールもやりたいし、Instagramに投稿する漫画ももっと描きたいし、イタリア旅行も行きたいし、スキューバダイビングもしたいです。やりたいこと、両手におさまらないですね。足りないんですよね、人生が。来世までかかっちゃうかも。絶対に生まれ変わってやるって思っています。

――思ったより壮大な話になりましたね…! たくさんの夢を実現していく過程で、あたらしい絵本の着想にもつながってくるかもしれませんね。これからの活躍も楽しみにしています。

〈おまけの質問〉

Q.ここだけの話を教えてください

アイスの「爽」に井村屋の小豆と玄米フレークをかけて食べると、すっごくおいしいんですよ。ぜひやってみてください。わたしはNHKの高井正智アナウンサーと俳優の野間口徹さんが好きなのですが、アイスを食べながらそのふたりをテレビで観るのが最近の楽しみです。

話を聞いた人:すみくらともこさん 絵本作家

1968年長崎県生まれ。結婚後に福岡へ引越し、四児を育てる。現在は東京都府中市在住。介護福祉士として働く傍ら、読み聞かせボランティアに参加、絵本アカデミー警固塾で絵本作りを学ぶ。 子どもたちが心から楽しんでくれる、読み聞かせしやすい絵本作りを心がけている。2017年大島国際手作り絵本コンクール銅賞、2018年大島国際手作り絵本コンクール奨励賞、2019年東京展えほんの部屋マーベラス賞、2020年第4回絵本出版賞最優秀賞。絵本作品『わにくんのだめだめきゅうり』『わにくんのだめだめアイス』(みらいパブリッシング)。

ウェブサイト https://www.sumikura.org
Instagram @nana.asa.yai

取材・文 笠原名々子

みらいパブリッシング
2021年5月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

みらいパブリッシング

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