「オワコン」などない!人と人とを繋ぎ直し、商店街の再生に奔走する若き主人公たちに籠めた思い

エッセイ

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稲荷町グルメロード

『稲荷町グルメロード』

著者
行成薫 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758444033
発売日
2021/04/15
価格
748円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『稲荷町グルメロード』刊行によせて

[レビュアー] 行成薫(作家)

皆さんのご自宅近くに、「商店街」はございますか?

僕は仙台市の生まれで、地元の駅前にはアーケード商店街がいくつもあります。お正月には初売りで大行列、夏には七夕飾りがきらびやかに飾られるような規模の大きな商店街でして、食べ物屋さんから服屋さん、雑貨屋さんに楽器屋さんと、ありとあらゆるお店が並んでおりました。僕にとっての商店街は、昔から当たり前のように存在するものであった気がします。

反面、近年は日本各所で「シャッター商店街」が増え続けているというニュースや記事を見る機会が増えました。大人になって取材や旅行であちこちに行くようになると、人通りのない、寂しい商店街を目の当たりにすることもあるのですよね。時間が止まってしまったような商店街を見て、街の中心に商店街がある地域で育ってきた僕は、やっぱり寂しいなあと思ってしまいがちです。

今回、企画の出発点は、僕が慣れ親しんできたような、賑わいのある商店街を舞台としたお話を書くことでした。でも、商店街というテーマを書くにあたっては、どうしても避けて通れないと思ったのが、シャッター商店街という現実。そこで、本作『稲荷町グルメロード』では、「商店街再生」というテーマをお話の土台に置きつつ、文庫として気軽に楽しんで頂けるように、飲食店・グルメを足し算してお話を作ることにしました。

作中でも少し触れたのですが、商店街から人がいなくなったのはなぜなのかと考えた時に、僕は「人同士の繋がりが切れてしまったからではないか」と考えたのですよね。僕にとっては「食」も「商店街」も普遍的なものであったはずなのに、コロナ禍で飲食店はアイデンティティの危機を迎え、一時は商店街のみならず、多くの街から人の姿が消えてしまいました。全然、普遍的じゃなかった。ある状況下においては、繋がりは簡単に切れてしまうのだなあと思い知らされました。

家にいても、ネットショッピングで自由に好きなものを買える時代。旧来の商店街を「オワコン」と言う人もいます。それもまた、時代、世代の断絶なのかな。でも、今あるものというのはすべて過去と繋がっていて、そこから人から人へと受け継がれてきた結果、現在に辿り着いているのだと思います。果たして本当に、商店街はもう「オワコン」なのでしょうかね。僕は、「オワコン」という言葉は、正直、あまり好きではないです。どんなものにも、可能性を感じたいなと思っています。

消えゆくものと、残すべきもの。切れてしまった繋がり。本作の若き主人公たちは、過去と向き合いながら人と人とを繋ぎ直し、商店街の再生に奔走します。僕も四十代に入り、決して若いとは言い難い年齢になりました。でも、昭和、平成、令和という時代をまたいで生きてきて、時代時代の文化に触れてきた世代でもあります。古い価値観と新しい価値観の狭間の人間として、若い人たちとお年寄りを繋ぐのは僕ら世代なのかなあという、変な使命感があったりもします。

人と人との繋がりが希薄になりがちな今、本作が多くの方のもとに届いて、皆さんと大事なものを繋げるきっかけになるとよいなと思います。是非、ご一読くださいませ。

 ***

【著者紹介】

行成薫(ゆきなり・かおる)
1979年宮城県生まれ。2012年『名も無き世界のエンドロール』で第25回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。本作は2021年映画化された。他著に『彩無き世界のノスタルジア』『KILLTASK』『スパイの妻』『本日のメニューは。』『僕らだって扉くらい開けられる』がある。

角川春樹事務所 ランティエ
2021年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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