読みながら話芸の来し方行く末を考えた

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語り芸パースペクティブ

『語り芸パースペクティブ』

著者
玉川奈々福 [著、編集]
出版社
晶文社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784794972576
発売日
2021/03/29
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

読みながら話芸の来し方行く末を考えた

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 緊急事態宣言はものを考えるのにいい。本書を読みながら、落語という話芸の来し方行く末を、そして他の話芸との関わりを考えた。

 第1章 語り芸の水脈 まずは映画監督・篠田正浩氏の並々ならぬ造詣に度胆を抜かれる。本書は「冒険的講演録」と謳い、講演、実演、対談、鼎談から成り、そののっけの講演に引き込まれたのだ。

 第2章 節談説教 廣陵兼純 釈徹宗 これは音でしか聞いたことがなく、実際どんなものなのかと、客として観に出かけた。笑いの部分が落語に、たたみかけるところが講談、節談とある如く説教の調子は浪曲にも似て、なるほど言われる通り、諸芸を内包していると感じ入ったのだった。

 第3章 ごぜ唄、説経祭文 第4章 義太夫節 第5章 講談 第6章 女流義太夫 第7章 能 第8章 上方落語 第9章 浪曲 第10章 落語 第11章 ラップと謡

 義太夫はちゃんと女流を加えている。落語も上方落語との2章立てで、東西ほぼ同時期に発祥するも、上方が露天、江戸は座敷に始まるという成立過程の違いからきている。

 本書のサブタイトルは「―かたる、はなす、よむ、うなる」で、なるほど話芸は幅広い、そして奥が深いとあらためて確認し、最終章に辿り着く。ラップと謡、さてどんな共通点がと読み進めたのだが、とんでもないところへ連れて行かれた。能楽師の安田登氏と作家のいとうせいこう氏の話がとめどもなく広がり、読者は翻弄されるのだ。少くとも私は。

 語り芸を更に深く考えた。それは途轍もなく豊饒な世界だが、このコロナ禍を境にどうなってしまうのかということだ。配信の可能な芸もあるだろうが、空間の共有は大切なことで、どうしても観客を必要とする芸もまたあるのだ。落語に、客がよかったからこそいい芸ができたという瞬間があるように。

新潮社 週刊新潮
2021年5月20日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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