『感じるオープンダイアローグ』
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開かれた対話が生む魔法のような癒し
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
対話が必要だと、みんなが感じている。家庭でも職場でも、あるいは教育、医療のような場でも、自分の考えを充分に語り、かつ正面から誠実にそれを聞いてもらう機会は足りていない。だから多くの人がSNSの闇に向かって自分の気持ちを投げつける。
森川すいめい『感じるオープンダイアローグ』の場合、対話の目的は人の心を癒すことである。1980年代にフィンランドで始まったオープンダイアローグ(開かれた対話)の試みは多くの人を救い、その考え方が世界に広まりつつある。オープンとは、秘密にしないという意味だ。治療に関する情報を医療者側が一方的に握っていたのを改め、患者側も発言し、またその話をつねに複数の人間が同席して聞くことで、偏った見方や一方的な判断をなくす。向精神薬が手放せなかった人たち、ずっと入院生活が続くと思われていた人たちが、この方法でめきめき回復する。
著者は精神科医で、ホームレス支援にもたずさわる。ただの対話でなぜ魔法のような回復が起こるのかを知るためフィンランドに行き、学んだ方法を日本で実践する。精神科の患者の多くは、家族と話ができていない。第三者が話し合いの「なかだち」をするだけで、急激に回復していくものがある。それを助けるのが、「その人のいないところでその人の話をしない」「3人以上で話す」などの、対話のルールである。やっぱり、人を癒すのは薬ではなく人なんですね。