『福島の子どもたち』
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<東北の本棚>成長支えた人々の記録
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で、日常を奪われた福島県の子どもたち。教育や福祉の現場や地域で成長を支える人々が、10年の歩みを振り返った。編著者は、教育と福祉の連携に詳しい福島大名誉教授の鈴木庸裕日本福祉大教授。副題を「おとなは何ができたのか」とし、子どもの主体性を尊重する支援の在り方を考えた。
鈴木教授は原発事故避難者への公的支援が減る過程で、子どもも「自己責任の重圧」を受けたとみる。このため、他者に頼ったり甘えたりできない「当事者性の喪失」が起きたと考察。まずは生活基盤を整え、子どもが周囲の支えを実感できる環境をつくることに解決のヒントを見いだす。
NPO法人ビーンズふくしま(福島市)の中鉢博之事務局長は、仮設住宅や復興公営住宅での学習支援や子どもの居場所づくりを紹介。避難の経験や家族のことなどを尋ねない姿勢を守り、「子どもが発するメッセージを受け止めてきた」という。
いわき市で思春期の性の問題に取り組む鎌田真理子医療創生大教授は、震災時に幼児だった中高生の自己肯定感の低さを指摘。性感染症や不登校の増加も踏まえ、成長段階に応じた支援の必要性を強調する。避難経験を徐々に言語化し、前向きに成長する子どもの多さにも触れた。
21人が執筆。最終章は震災時に小中高校生だった3人が率直な思いをつづる。当時中学2年の松崎奏さんは、大学時代に所属した音楽団体で「被災地の子どもが震災への思いを音楽にする」ことを求められ、違和感を持つ。一方、被災経験を同世代に語り、受容された経験を支えにしたという。
悩みつつ、子どもと向き合う実践者たちの記録。鈴木教授は「個々への支援が大きく社会を動かす」と希望を託す。(和)
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かもがわ出版075(432)2868=1980円。