もう死んでいる十二人の女たちと パク・ソルメ著 白水社

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もう死んでいる十二人の女たちと

『もう死んでいる十二人の女たちと』

著者
パク・ソルメ [著]/斎藤 真理子 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784560090664
発売日
2021/02/25
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

もう死んでいる十二人の女たちと パク・ソルメ著 白水社

[レビュアー] 柴崎友香(作家)

 女性殺人事件や光州事件をモチーフにしたこの短編集は、ここ数年読んできた韓国の女性作家の中でも独特の読み応えがあった。

 「じゃあ、何を歌うんだ」では、語り手の女性が、サンフランシスコのイベントや京都のバーで光州事件の詩や歌に接する。育った街で生まれる前に起こった事件を書いたそれらを、彼女は南米やアイルランドの政治的弾圧事件のように感じる。「冬のまなざし」では、原発事故が起きた土地を取り上げたドキュメンタリー映画に違和感を覚える。どちらの短編も、その場で交わされた関係のなさそうな会話や感覚を反芻(はんすう)しながら、わかったつもりのストーリーではない触れ方を探る。自分自身の言葉や感覚で世界と対峙(たいじ)したいという、強い意志を感じる。

 無造作にも思える会話や思考の言葉が繰り返されて独特のリズムを刻むその文体は、鋭く、世界や物事を一つ一つ確定していくかのようだ。突然小さくなった男と街をさまよったり、犬と入れ替わった旧友と再会したりと、非現実的な状況の話も、奇妙なユーモアが漂いながらリアルで生々しい。ずれながら重ねられる言葉の隙間に、不確かで捉えがたい現実が垣間見える。

 「時制」という言葉が何度か使われ、ある過去の時点から見た未来を想像してみたりもする。なにかが起こったのは過去だとしても、その影響は現在にも続き、関わった人がそこにいることを、時間と距離の向こうに見つめ、しかし決してわかりやすい枠に収めようとはしない。

 過酷な暴力や危機的な事故をなぜこんなふうに一見たんたんと書いているのかと感じるかもしれないが、この語り方こそが、暴力的で不条理な、誰かの痛みに満ちたこの世界で人々が無関係なように生きていることに対しての、問いそのものなのではないか。他者や世界との距離をはかり、関わり続けるために、徹底して言葉を研ぎ澄ます。この先も読み続けていきたい、次の作品を早く読みたい作家だ。斎藤真理子訳。

読売新聞
2021年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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